2020/08/03
気象予報の観点から見た防災のポイント
その後、気象衛星の雲画像を数多く観察していくと、図6のような事例は決してまれではないことが分かってきた。例えば、1974(昭和49)年7月7日に静岡県で発生したいわゆる「七夕豪雨」も、図6に似た雲パターンで起きていたことが分かった。図7(a)はそのモデルを示す。

台風の南東象限にできる帯状雲
筆者は、気象庁予報課に配属された若き日、台風が日本列島に接近・通過する過程で雲パターンが変化していくことに関心を持ち、多数の事例について調べたことがある。台風の雲域は、低緯度の洋上にあるときは円形に近い形をしているが、日本列島付近に北上してくると、次第に円形度が崩れ始める。そして、台風中心の東側から、南南西の方向に伸びる雲の帯が形成されることに筆者は注目した。図7(b)のモデルがそれに該当する。
日本列島付近にやって来た台風に図7(b)の帯状雲ができるのは、台風の西側から南側に回り込む中緯度気塊が、台風の南東象限で熱帯起源の暖湿空気と出会い、そこに境目を形成するからである。この帯状雲は、台風が温帯低気圧に変化していく過程で、いち早く、台風本体の温帯低気圧化に先行してでき始める。その位置は、飛騨川豪雨時の天気図(図2)のように、寒冷前線として認識されるものである。
台風が日本列島付近にやって来たとき、台風中心の西側に寒冷前線を描いた天気図を見かけることがあるが、その位置に寒冷前線ができることはなく、その解析は正しくない。台風が温帯低気圧化しつつあるときの寒冷前線は、必ず台風中心の東側または南東側から描かれなければならない。
図7(b)の帯状雲は、事例によって長さや明瞭さに違いはあるものの、台風が日本列島付近に進むとほぼ例外なく形成される。筆者が得た結論は、図7の(a)と(b)は本質的に同じで、南方にも台風または熱帯低気圧が存在する場合に限って(a)になることがある、というものである。
水蒸気の補給路
図7(a)、(b)の帯状雲は、中緯度に進んだ台風が南方から水蒸気の供給を受ける補給路のようなものである。台風の南東象限に形成されるこの帯状雲は危険だ。幅が細いことは、川幅が狭くなっているようなもので、流れが急になっていることを示す。別な表現をすれば、そこでは水をたっぷり含んだタオルを絞るようなもので、狭い範囲に多量の降水がもたらされる可能性がある。
しかも、この帯状雲は、飛騨川豪雨のときのように、動きが遅かったり、ほとんど停滞したりすることがある。そうすると、同じ場所で強い雨が持続することになる。どのような場合に動きが遅いのかと言えば、それは、台風が東へ進まず北上するときである。台風が北北西や北西に進むときはなおさらである。飛騨川豪雨の事例がそれに該当する。
さらに言えば、帯状雲が図7(a)タイプのときは、台風が東へ進んでも、帯状雲の全体が東へ移動することはない。なぜなら、南方の台風または熱帯低気圧に近い部分の帯状雲は西進するからである。つまり、図7(a)タイプでは、帯状雲のどこかに移動しない支点のような場所が存在することになり、そこを中心に帯状雲が時計回りにゆっくり回転する。
台風が日本列島付近に近づくときは、進路予想図に表示される台風中心の動きだけでなく、台風の南東象限にできる帯状雲を常にマークしておきたい。
気象予報の観点から見た防災のポイントの他の記事
おすすめ記事
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/10/21
-
「防災といえば応用地質」。リスクを可視化し災害に強い社会に貢献
地盤調査最大手の応用地質は、創業以来のミッションに位置付けてきた自然災害の軽減に向けてビジネス領域を拡大。保有するデータと専門知見にデジタル技術を組み合わせ、災害リスクを可視化して防災・BCPのあらゆる領域・フェーズをサポートします。天野洋文社長に今後の事業戦略を聞きました。
2025/10/20
-
-
-
走行データの活用で社用車をより安全に効率よく
スマートドライブは、自動車のセンサーやカメラのデータを収集・分析するオープンなプラットフォームを提供。移動の効率と安全の向上に資するサービスとして導入実績を伸ばしています。目指すのは移動の「負」がなくなる社会。代表取締役の北川烈氏に、事業概要と今後の展開を聞きました。
2025/10/14
-
-
-
-
トヨタ流「災害対応の要諦」いつ、どこに、どのくらいの量を届ける―原単位の考え方が災害時に求められる
被災地での初動支援や現場での調整、そして事業継続――。トヨタ自動車シニアフェローの朝倉正司氏は、1995年の阪神・淡路大震災から、2007年の新潟県中越沖地震、2011年のタイ洪水、2016年熊本地震、2024年能登半島地震など、国内外の数々の災害現場において、その復旧活動を牽引してきた。常に心掛けてきたのはどのようなことか、課題になったことは何か、来る大規模な災害にどう備えればいいのか、朝倉氏に聞いた。
2025/10/13
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方