2018/12/04
事例から学ぶ
「教科書通りに作ったBCPでは機能しない」。東日本大震災以降、BCPを構築してきた日清食品ホールディングスは、2017年からそれまでのBCPを根本的に見直す作業に着手した。同社が今もっとも重視しているのは、自社施設が被災するような災害時において、主要商品を供給し続けるために、各業務の意思決定を誰がいつまでにどう行うのか、その責任の所在とプロセス、時間制限の明確化だ。
災害で気づかされた企業のミッション
食足世平(しょくそくせへい)。
「食が足りてこそ世の中が平和になる」という意味のこの言葉は、NHKの朝ドラ「まんぷく」でもおなじみ日清食品の創業者、故・安藤百福氏が掲げたもので、今も同社グループで創業者精神として受け継がれている。「戦後の焼け野原で、人々が食べ物を求めてさまよい歩く姿を見て、創業者は食を通じて何か人の役に立つことはできないかと考えたのです」。同社CAO(グループ管理責任者)の清藤勝彦氏はこう語る。
保存性に優れ、お湯を入れるだけで食べられる即席麺は災害が発生すると爆発的に需要が増大する。「非常時でも即席麺を社会に供給し続けることが我々のミッション」(清藤氏)。そのことを気づかされたのが阪神・淡路大震災だった。
当時84歳だった安藤百福氏は、震災直後に大阪本社に出向き陣頭指揮を執り、被災した神戸の街に即席麺を送り届け続けた。水道やガスが止まっていても給湯することができるキッチンカーも現地に派遣し、合計100万食を提供した。「寒い冬の時期だったので、被災者へ温かい即席麺を届けたいという思いから、全社一丸となって被災地の支援にあたりました」(同)。
その後も、大きな災害が起きるたびに被災地に即席麺を提供し続け、東日本大震災では、過去最高となる200万食を被災者のもとへ届けた。

かまぼこの入っていない「どん兵衛」
しかし、東日本大震災では、それまでの災害と大きく異なる事態が発生した。茨城県取手市にある自社の生産工場が被災。さらに追い打ちをかけるように、「日清のどん兵衛」に入っているかまぼこの製造元も被災した。
わずか1センチ四方にも満たないような小さな乾燥かまぼこではあるが、原材料としてパッケージに書かれている以上、入れずに販売することはできない。結局、取手市の工場は2週間で完全復旧し、かまぼこの表記をパッケージの原材料表示から消すことで商品の出荷を継続させた。「それまで当社の主要工場は全国に分散して立地しているため、BCPは機能していると考えていたが、その枠を超える課題が初めて浮き彫りになった」(清藤氏)。
事例から学ぶの他の記事
おすすめ記事
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
-
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方