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災害対策における情報活用とBCPを
継続的に改善させていくためのポイント
本気で考えるBCP

新建新聞社/リスク対策.comとJX通信社の共催オンラインセミナー『本気で考えるBCP~災害対策における情報活用とBCPを継続的に改善させていくためのポイント』がこのほど開催され、“本気でBCPに取り組む企業”として、堀場製作所、日清食品ホールディングス、JX通信社の3社の担当者が登壇し、それぞれの立場から、企業に求められるBCPの姿について議論した。

CASE1
  • 事例報告1 堀場製作所
  • 事業継続の意識を日常の事業活動に落とし込み
    専任部隊に任せない体制づくり
  • 株式会社堀場製作所
  • 理事 分析·計測開発本部 東京開発担当

佐竹司

前半最初の講演に登壇した堀場製作所の佐竹司氏は、HORIBAグループによるBCPの取り組みについて「経営の仕組みとして取り入れているIMS/ISOの仕組み」、「事業継続で大切にしていること」を中心に説明した。

同グループは、宇宙、農業、新素材、IT、健康·安全、水、環境などの幅広い分野で、分析·計測のための製品の開発·製造を手がけている。グローバルでの従業員数が約8300人、地域別比率はアメリカが11%、ヨーロッパが33%、アジアが18%、日本が38%、売上高の海外比率は約70%にのぼる。地域が「相互に補完し合って強靭化」を図る一方、各ローカルで起こる災害や様々な課題は「グローバル課題」として集約し、「被災していないところからバックアップする」システムをとっている。

また、自動車計測、環境·プロセス、医用、半導体、科学の各事業セグメントで世界的に大きなシェアを得る中、供給責任を果たすための管理手法としてさまざまなISOのマネジメントシステムを導入。1993年から品質、環境、労働安全衛生のシステムをそれぞれ導入し、さらに一本化したインテグレーテッド·マネジメント·システム(IMS)を認証機関とともに開発して2004年に認証取得。このIMSを経営のコアに据えて展開しながら、2014年3月にはISO22301事業継続マネジメントシステムをIMSに追加適用、さらに各事業セグメントの拠点や機能の重要性に応じて認証システムを取得してきた。

佐竹氏は、こうした取り組みにおいて「本当に重要なのは、認証取得した後、経営トップも含めた従業員全員が、いかにパフォーマンスを上げてシステムを運用するか」と指摘。システム運用にあたり、コーポレート·ソーシャル·リスポンシビリティ(CSR)を中心に据えた委員会体制を構築する一方で、「専任部隊に任せない体制」を継続して作っていくことを重視しているとも述べた。

また、「異常時でなく、平常時が大切と心の中に据え、想定できない事態に対して、その能力を備えていくことが必要」とし、平常時から「コミュニケーションを大切にする」、「安全衛生を日頃から配慮する」、「技術を大切にする」、「伝承をしっかりと行う」、「異常時に備えておく」、「人財が育成できる」という6つのポイントを通じて「想定外を想定内にするように心がけ、その知恵を個人および組織が身につける」ことの大切さを強調した。

CASE2
  • 事例報告2 日清食品グループ
  • サプライチェーン全体の継続を意識
    全体を考え現場と経営層それぞれが意思決定
  • 日清食品ホールディングス株式会社
  • 総務部課長

髙橋正和

続いて登壇した日清食品ホールディングスの髙橋正和氏は、冒頭、「食足世平(食足りて世は平らか)」という同社グループの創業者精神が現在まで受け継がれ、被災地への食糧支援や給湯機能付きキッチンカーの派遣等を行ってきたことなどを紹介。その上で、同社グループのBCPの取り組みについて、「災害対応体制」、「BCPの全体像」、「日清食品が考える事業継続」を中心に発表した。

髙橋氏は、同社の「災害対応体制」について、(1)実際に被災があった工場や営業所等の様々な情報を取りまとめ報告を受ける「自衛消防隊」、(2)それらの雑多な情報を集約し、インテリジェンスとして活用できるように情報整理を行う「クライシスマネジメントチーム」、(3)集約・整理された情報をもとに経営判断を行う「災害対策本部」、(4)経営判断に沿った事業継続を行う「事業継続活動部隊」の4つの活動で構成されると説明。これらをいかに“スピーディー”、“スムーズ”、“シームレス”に行うかが重要なポイントであると指摘した。

次に、「BCPの全体像」として、事業継続の観点から、同社グループが製品を供給するために必要な項目を、被災直後からの「時間軸」と、経営寄り/現場寄りの「判断レイヤー」によるマトリックス上に表示。災害対策本部の意思決定によらず、現場に権限を移譲して判断が行われる項目について、様々な部署である程度の被災を想定した具体的なプランを構築していると説明した。また、生産、物流、資材調達、営業といった部署が同じ情報をもとに「サプライチェーン·ベースプラン」と呼ばれる一つのBCPを作り、各部門のBCPに落とし込んでいる点が特徴であると述べた。

一方で、経営者が意思決定をするための基本方針については、ISOを参考に必要なエッセンスを抜き出して洗練させ、五箇条にまとめたハンドブックを、各事業会社の役員層に啓蒙として配布していると説明した。

最後に髙橋氏は、「日清食品が考える事業継続」に言及。あるエリアが被災し、同エリアの工場だけでなく、資材サプライヤー、協力倉庫なども合わせて被災してしまった場合、稼働可能な工場に資材を集中させて生産量を上げ、被災地周辺の倉庫に供給を行うことで、被災した工場の生産分をカバーし、その上で、被災地に支援を行うというもの。こうした取り組みのために、「サプライチェーン全体の継続が必要」と髙橋氏は指摘した。

CASE3
  • プレゼンテーション
  • AI×ビッグデータでいち早くリスク情報を提供
    自然災害からレピュテーションまで対応
  • JX通信社
  • マーケティングマネージャー

松本健太郎

JX通信社の松本健太郎氏は、同社のプロダクト「FASTALERT(ファストアラート)」を中心に、同社の取り組みについて説明した。

同社が提供する「FASTALERT」は、SNS等のビッグデータから収集した情報を、AIによる自然言語処理や動画解析の技術を用いてノイズ除去することで、災害、事故、社会リスク、経済リスク、レピュテーション·リスクまで含め、クライアントにとってのリスク情報を、“圧倒的低コスト”で“スムーズ”に収集·配信するサービスだ。

松本氏は「FASTALERT」の特徴として、「幅広い情報をカバー」、「API等を用いて情報を自動的に収集」、「早くて分かりやすい」という3点を強調した。

1点目の「幅広い情報をカバー」については、収集できる情報が100種類以上であるほか、企業にとっての炎上騒ぎ、システム障害など、デジタル上でのリスクを配信することも得意とすると説明。2点目の「API等を用いて情報を自動的に収集」については、大規模な自然災害が発生した際に、人海戦術に依存しないで情報収集できるメリットを挙げた。3点目の「早くて分かりやすい」については、例として、2021年に発生した熱海の土砂災害で、主要報道機関の第一報より1時間以上早く検知したことを挙げ、「いち早く情報収集でき、かつ動画、静止画、テキストで様々な情報を手に入れることができる」という特徴を強調した。

後半のパネルディスカッションでは、前半の登壇者3名に『リスク対策.com』編集長の中澤幸介氏をモデレーターに加え、「命を守るBCP」をテーマに議論を深めた。

DISCUSSION
  • パネルディスカッション「命を守るBCP」
  • 命につながる事業の継続は企業の社会的責任の核
    供給者としての使命感がBCPに魂を吹き込む
  • リスク対策.com編集長

中澤幸介

中澤編集長は冒頭、「BCPを作ったけれど本気になっていない、従業員の意識が高まらない。この問題をどうやって解決していくかを考えたとき、“命を守る”ことについて、もっと本気になって考えていくことから始めたらいいのではないか」と問題提起し、まず各企業がBCP策定上、「人の命を守る」ということをどの程度、どのような事業で意識しているのかを尋ねた。

  • 堀場製作所

佐竹司

堀場製作所の佐竹氏は、HORIBAグループとして展開する5つの事業分野のうち、特に人の命を意識している事業として、医療機器と半導体機器の2分野を挙げ、2014年に適用したISO22301事業継続マネジメントシステム認証は、両分野に特化して行ったものであることを紹介。医療機器分野は「供給が止まると、患者さんの生命に直接影響する」、また半導体機器分野については、同社の製品の「供給が停止すると、具体的には世界の60%に影響する。社会基盤の肝となっている半導体産業を継続することが重要」とその理由を説明した。

日清食品ホールディングスの髙橋氏は、「即席麺」が被災地の復興と平時の備蓄の両面で最も求められる存在であることに触れ、「有事があっても生産を止めない、事業を継続することは社会的使命であると捉えて活動している」と述べた。具体的には、主要な生産拠点を全国に分散させているほか、サプライチェーンの管理部門が集中する首都圏で災害が起きたとしても機能が停止しないような取り組みや、サプライヤーの協力を得て、サプライチェーン全体で継続していくための取り組みを通じ、供給を絶やさないように「一丸となってBCPを構築している」と説明した。

  • 日清食品ホールディングス

髙橋正和

JX通信社の松本氏は、同社の事業に“報道機関”としての責任があり、「FASTALERT」による配信情報に関して「その内容に誤りがあるかどうかという責任は、最終的に私たちJX通信社が負う」と説明。SNSから収集される情報に対する裏付けのためのリソースを張っていることにも言及し、例として、大阪ビル放火殺人事件での情報配信の経緯に触れた。松本氏は「責任を負うということは、たとえそれが人の命に関わるようなものであったとしても、『私たちが責任を持ってお届けしています』という責任の踏み込み度合い」との認識を示した。

続いて、中澤編集長はBCP運用上の重要課題である「従業員の意識づけ」への取り組みのポイントについて各社に質問。堀場製作所の佐竹氏は、まず経営トップの発信の重要性を挙げた。2013年に経営トップから「人命優先」を啓発する「HORIBAグループ安全宣言」が発令されたことを紹介。また、「人が安心して空気が吸える、安心して水が飲める、安心した食物を取る」ことを目的に分析·計測技術を提供するという同グループの役割を、従業員全員が理解するように会社経営トップから発信し、それに応える形で全社が一つの指針のもとに活動していくことの大切さを強調した。トップダウン、ボトムアップという動きだけでなく、中間層が「横方向に動く」ことが非常に大事であると指摘し、「従業員がいかに先端でトップの指示なく、業務ラインの指示なく的確に行動できるか」を目指し、そうした雰囲気作りに取り組んでいると説明した

  • JX通信社

松本健太郎

日清食品ホールディングスの髙橋氏は、創業者精神から「自助·共助の精神」が社内に根付いており、社員の「主体者意識」が非常に強いことがBCPの意識づけに影響していると指摘した。“自分事”としてBCPに取り組む人をいかに会社が作っていくかが非常に重要と強調。ホールディングス体制として、事業会社の中に「BCPをガバナンスとして効かせていくこと」が重要であり、「いろいろなファンクションの部署が協力し合ってやっていく体制を作っていくことが非常に大事」と述べた。

JX通信社の松本氏は、同社内で「ハザード情報をどのように届けると、顧客企業にとっての重要なインテリジェンスになりうるのか」が議論される一方、「自社でBCPをどうやって担保しておかなければいけないのか」という議論もなされてきたことに言及。そうした社内の雰囲気が醸成されていった結果として、関東圏での災害を想定し大阪拠点を開設したことを報告した。また、「危機が起きた後に、会社としてどう動かないといけないかが、日常的に会話されているか、単に文書をそろえただけか」が、日常での意識に「如実に差として現れる」と指摘、意識している企業が「FASTARERT」を積極的に活用する傾向があると紹介した。

パネルディスカッションを終えてセミナー全体を振り返った中澤編集長は、「『自社は全く人々の命に関係ない』と思われた企業もひょっとしたらあるかもしれないが、絶対にそんなことはない。自分たちのBCPでちゃんと命を守れるのか、行っている事業が平時において、あるいは災害時において、特に人々の命に対して何らかの“使命を持つ”のではないか、という見直しをすることで、きっとBCPそのものが“命を持つ”ようなかたちで、生き生きとしてくる内容になるのではないか」と、改めてBCPの果たし得る役割の大きさを強調した。


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