昭電とリスク対策.comは8月31日、近年激化する自然災害やセキュリティの脅威から見えてきた課題と、企業として必要とされる備えや対応についての最適解を探るオンラインセミナー『サステナブル時代における企業のBCP対策』を開催した。雷害対策、地震対策、水害対策の三つの自然災害への対応に加え、コロナ禍で一気に加速したデジタル化で重要性が増しているセキュリティ対策を加えた四つのリスクへの対応について、有識者が対策のポイントを解説するとともに、昭電が具体的なソリューションの提案を行った。
「エビデンス」「ネットワーク」「複合化」で対策推進を
- 株式会社昭電
- 常務執行役員
- 事業推進部長
加藤 雅也氏
第一部・キーノートスピーチでは、昭電・常務執行役員事業推進部長の加藤雅也氏が「サステナブル時代に必要な安全・安心のニーズについて」と題してこれからのBCP対策に必要な視点を提示した。加藤氏は冒頭、昨年春以来のコロナ禍に触れ、「私どもの経済活動は、コロナ禍の経験によって本当に予測できないことが痛感された。快適で持続的な環境を我々が手にするには、自然環境への関心をより高め、自然災害の見識・知力を結集する必要がある」との考えを示した。
そのうえで、今回のセミナーを通じて伝えたいメッセージとして、「エビデンス」、「ネットワーク」、「複合化」の3つのキーワードを紹介。「エビデンス」は、自然災害が大型化し、予測不可能になる中で、より詳細な現状把握と効果的な分析が必要となることから、「エビデンスの因子をどれだけ拾えるかがBCP対策の最も有効な手段」になると説明した。二つ目の「ネットワーク」は、「エビデンス因子を獲得するために不可欠な要素」とし、「5GやIoT(モノのインターネット)の進行によって、より見える化の精度、確度が高まり、エビデンス因子の獲得と分析が可能な時代がきた」と期待を込めた。
三つ目の「複合化」については、「取り組みの複合化」と「手段・手法の複合化」の二つを考える必要があると指摘。「取り組みの複合化」は、個別の事象から視野を拡大しつつ、そのロケーションに対して少し遠くの位置から物事を見ることで、インシデントに最も重要なものを考え、「対策を複合化していく」ことであり、「手段・手法の複合化」は、最新の技術の活用とともに、既存の防災関連設備のグレードアップを通じた複合化によって新たなBCP対策を考えるものであると説明した。
加藤氏は、サステナブルな社会の創造に向かう世界的な流れにあって、「知力の結集とコストの投入はやはり必要」と述べ、3つのキーワードを念頭に置きながら、「ぜひ皆様のBCP対策のお手伝いにソリューションを提供させていただきたい」とアピールした。
再エネ普及で求められる維持管理が難しい立地への対応
第二部では、「BCPにおける雷害対策の重要性〜急速な市場拡大が進む風力発電事業での取組〜」と題し、中部大学工学部教授の山本和男氏と、昭電・執行役員/技術開発部の柳川俊一氏がそれぞれ講演した。
高まる雷害リスク
- 中部大学 工学部 教授
山本 和男氏
中部大学の山本教授は、近年の地球温暖化の進行に伴って普及する風力発電に言及し、「風況の良い場所は一般的に天候が荒れる場所であり、雷の多い場所。風力発電のような高い建物が立てば、雷の被害を多く受ける」と述べ、夏場の数回に対し、冬季雷は多い場所で60回もの落雷を観測することを紹介した。
また、近年多くの設置計画が報じられている洋上風力発電に対する雷害のリスクに言及。雷が発生する条件と考えられる「湿気」と「上昇気流」が潤沢に供給される日本海において、「おそらく陸上よりは落雷の数が増えるのではないか」との考えを述べ、「洋上では雷の対策はより重要になってくる」と指摘した。
- 株式会社昭電
- 執行役員
- 技術開発部長
柳川 俊一氏
洋上風力のリスクの一例として、山本教授は雷害対策のひとつである「ダイバーターストリップ」に言及。日本の冬季雷のエネルギーが大きいため、海外製のレセプターに落雷してダイバーターストリップが焼損するケースが見られたことを報告し、「洋上でダイバーターストリップがなくなっても、容易にメンテナンスには行けない。雷に対する耐性の高いダイバーターストリップを開発しなければならない」との考えを示した。
ただ、高耐雷性能のダイバーターストリップの開発は進んでいるものの、「現状、日本に風車メーカーは無く、新たな風車の全てが海外製。メーカーはダイバーターストリップの後付けを基本的に認めていない。本当に必要な対策であるにも関わらず、風車メーカーが日本に存在しないことによって対策ができない」といった難しさも指摘した。
続いて、柳川氏が風力発電設備の雷害対策に関する昭電の動向を紹介。洋上風力の展開に対応して改正が予定される「JIS C-1400-24」のうち、新たに規定される「落雷時には直ちに風車を停止させなければならないこと」に対応し、中部大学と昭電が現在、誤検知を防ぐ3個の磁界センサーを備えた落雷電流検出装置の共同研究・開発に取り組んでいることを報告した。
最後に、山本教授は「風力発電に関する技術は日々進歩しており、様々な研究者が研究を続けている」として、開発が進む洋上風力の監視技術に触れた上で、「風車の健全性を常時確認しながら安全に運用する技術は、この5〜10年で確立されるのではないか」との考えを示した。
あらゆる地震動を想定しレジリエントな体制の構築を
第三部では、「東日本大震災から10年を経て見えてきた課題と最新トレンドによる対策方法」について、埼玉大学理工学研究科環境化学・社会基盤部門教授の齊藤正人氏と、昭電・地震対策システム部部長の村井和男氏が解説した。
有効なBCP・レジリエント戦略
- 埼玉大学
- 理工学研究科
- 環境科学・社会基盤部門 教授
齊藤 正人氏
斎藤教授は、東日本大震災の直後に「想定外」という言葉が使われたことを振り返り、「知識」と「認識」の二軸によって「不確実な世界を科学する」というリスク概念の捉え方、さらに心理学分野における「レジリンエンス」という概念が防災分野で用いられるようになり、国土強靭化、危機耐性、SDGs、BCPといった具体的な取り組みとして展開されていったことを説明。その上で、BCP・レジリエント戦略としては、(1)十分な備えを持つこと、(2)物資の調達先を複数持つこと、(3)正確で新しい情報を収集すること、(4)システムの構成要素が十分な自律性を持つこと、(5)一部の混乱が全体に波及しないように防火帯を設けること、の5つを常に意識することが有効であると紹介した。
これに加えて村井氏は、危機管理において、状況の変化に応じたリスク評価と予防対策を行い、減災力を高めておくことで「災害発生時の被害をいかに小さくするかが重要なポイント。被害を最小限に抑えることによって、復旧時間も短くできる」と説明した。
- 株式会社昭電
- 地震対策システム部 部長
村井 和男氏
次いで、斎藤教授は“今後、警戒すべき地震”について紹介。南海トラフ巨大地震と首都直下地震の想定被害規模や発生確率に言及し、「幅広い周期帯域の地震動」「強度の高い地震動」「継続時間の長い地震動」に備える必要があると述べた。その上で、レジリエンス・BCPの観点から地震に強い構造システムとして、転倒・落下率と移動率が非常に低い「免震構造」の方が、「耐震・制振構造」に比べて現時点で優位であると説明。ただし、免震システムには過大な加速度を抑える効果がある一方で、非常に大きく変形してしまうという「トレードオフ」の課題があることも指摘し、これをクリアする可能性として「AIによる最適化や深層強化学習を組み入れていくことで、破壊的イノベーションが起きる可能性がある」との考えを示した。
村井氏は、サーバーラックを用いるデータセンターの建設に関し、「東日本大震災では、関東地方において免震装置を導入したサーバールームでの被害例が報告されている」と述べ、短・長周期に対応したサーバーラック用免震装置の必要性を指摘。同社のソリューションでは、スタンダード、ミドル(長周期)、ハイエンド(長周期・短周期)の製品をラインナップしており、設置場所や搭載機器に応じた提案を行っていく考えを示した。
変化する災害への対応にICTを活用
第四部は、「近年激化する水害に企業はいかに備え、対応すべきか〜令和2年7月熊本豪雨や平成28年台風10号の被災事例から〜」と題し、リバーフロント研究所・技術審議役博士(工学)の土屋信行氏、昭電・地震対策システム部部長の村井和男氏、昭電・執行役員情報機器システム部長(兼技術ソリューション推進室長)の八木祥人氏がそれぞれ講演した。
「知って備えていないがゆえの人災」
- リバーフロント研究所
- 技術審議役 博士(工学)
土屋 信行氏
土屋氏は、多くの犠牲者が出た「令和2年7月豪雨」(熊本豪雨)で発生した球磨川の氾濫や「平成28年台風10号」による岩手県岩泉の小本川の氾濫の事例を踏まえ、危機管理の上で最悪を想定するハザードマップを確認することが、企業を立地する上でも必要であると指摘。さらに「水害は私たちの生き様の結果であり、知って備えていないがゆえの人災と言っていいかもしれない。被害はゼロにできると考えている。今始めれば十分に間に合う」と強調した。その好例として「令和元年8月豪雨」の際、佐賀県大町町を流れる六角川の氾濫によって孤立したものの、患者を移送することなく医療行為を続けることができた順天堂病院の事例を取り上げ、同病院が氾濫を想定して盛り土の上に建設されていたことを紹介した。
最後に土屋氏は、東京都を流れる荒川が河口12.5キロ上流で決壊した場合、都内の地下鉄がほぼ水没するという想定を引き合いに出し、被害を想定し、訓練し、また十分に事前準備の時間を作って備えることの重要性を強調。「危機を知って、恐れて、備える。それにより、命も企業も経済活動も守れる。ぜひ準備を進めていただきたい」と念を押した。
ハードとソフトによる事前対策を提案
- 株式会社昭電
- 地震対策システム部 部長
村井 和男氏
こうした水害への備えとして、村井氏は、早期の対応が重要であるとし、事前対策として昭電の製品から、従来の止水に用いられる土のうに代わり、簡単かつ有効な使い方が可能な「アクアブロック」と「ボックスウォール」を紹介した。
「アクアブロック」は、保管時が400グラム、水に約3分漬けると15〜20キログラムまで膨らむ吸水性土のう製品で、一人の作業によって短時間で設置でき、保管場所も幅をとらない利便性を備える。「ボックスウォール」は、水の圧力で動かない構造を備えたプラスチック製のL字型止水板で、非常時には短時間で一人の作業によって設置できる。
続いて、これらのハードウェア製品をベースとした対策を補完するものとして、八木氏が、ICT(情報通信技術)を取り込んだ複合的なソリューションによる監視基盤の整備を提案した。その中心となる同社のクラウド型統合監視プラットフォーム「Kebin Cloud(ケビン・クラウド)」は、各種センサーの情報をクラウド上に取り込み、統合的に見える化するシステムで、各種センサー情報に基づくメール・LINEでの通知サービスも利用できる。
- 株式会社昭電
- 執行役員
- 情報機器システム部長
- (兼 技術ソリューション推進室長)
八木 祥人氏
八木氏は、「ICTのシステムは、温暖化や人工的な環境的変化に伴って年々変化する自然災害に追従しながら対策を講じていく上で、エビデンスとして情報をとり、次の対策につなげていく点で非常に大事なもの」と述べ、今後も顧客のニーズを取り込みつつ、こうしたソリューションの拡充を進めていく考えを示した。
企画・設計段階からサイバー人材の関与が必要
第五部では、電気事業連合会(電事連)・情報通信部長の大友洋一氏が登壇し、「サステナブル時代における電力業界の動向とサイバーセキュリティの確保」について解説した。
行政・業界が連携してエネルギー強靭化に対応
- 電気事業連合会
- 情報通信部長
大友 洋一氏
大友氏はまず、電力業界の安定供給・レジリエンス・災害連携強化に向けた取り組みを紹介。2020年にエネルギー強靭化法が整備されたことをはじめ、一般送配電事業者による共同での訓練や、復旧方式の統一化、電源車の計画的配備、都道府県や自衛隊との連携など、国との連携も含めた「災害時連携計画」を策定したことを報告した。また、昨年来のコロナ対策では、発電所、中央給電司令所など重要施設での運転・工事要員の感染防止対策の徹底、代替要員の確保、代替施設の活用、代替的な調達先の確保のほか、事務業務におけるモバイルやセキュリティなどテレワーク環境の充実、就業場所での安全確保のための通勤時の動線分離などに取り組んでいることを紹介した。
サイバーセキュリティへの取り組みについては、政府と業界が連携し、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)による「重要インフラ専門調査会」や、経済産業省による「産業サイバーセキュリティ研究会」に参加し、官民共同の課題などを議論していることを紹介。電気事業法改定に伴い、2019年から国が立ち入り検査を実施しているほか、各電力の社内では、経営層を責任者としたセキュリティ管理組織「SIRT」が整備され、セキュリティ戦略、計画、点検、事故対応、PDCA活動、セキュリティ対応訓練が行われていると報告した。
さらに、2017年に発足した電力ISAC(Japan Electricity Information Sharing and Analysis Center、JE-ISAC)の活動にも言及し、東京オリンピック・パラリンピック大会開催における“情報のハブ”としての役割や、欧米のISACとの連携を通じ、国際的な脅威に対応するため、情報共有に関する提携などを行っていることなどを説明した。
今後に関しては、“セキュリティバイデザイン”の考え方のもと、「企画・設計の段階から、サイバーに関わる人間がより関与を深めていくことで、AI、IoTの活用の中に見え隠れするデジタルリスクにも対応していく必要がある」と語った。また、そのために、ビジネスの変革・イノベーションを支えるサイバー人材の確保に向けて「業界を超えた協創」が必要であることを指摘した。
大友氏の講演を受け、デジタル・サイバー人材の確保について問われた昭電・常務執行役員事業推進部長の加藤雅也氏は「個別に深い知識を持つ技術者も必要だが、それを全体的に俯瞰できるような人材も必要。ハード、ソフト、総合的なシステムを納品する前に、それを触って検証させ、全体を頭に入れ、体で覚えさせるといった形で、一人ひとりの技術レイヤーを上げていく必要がある」と語った。