650組織20万3000ユーザーが参加「防災の日」に日本最大級の安否確認一斉訓練
トヨクモ
企業向け安否確認システム「トヨクモ安否確認サービス2」を提供するトヨクモ(東京都品川区、山本裕次社長)は9月1日の防災の日、同サービスを利用する648の企業や団体とともに一斉訓練を実施。約20万3000ユーザーが参加した。「これだけ大規模な安否確認の訓練を実施しているのは当社だけ」と、マーケティング本部の平山翔太氏。「参加された皆様は、訓練結果の分析レポートをさらなる防災力アップに活用していただきたい」と語る。
トヨクモ株式会社
マーケティング本部
平山 翔太氏
今年で3回目となったこの訓練は、参加団体数と参加ユーザー数が前年比で1.6倍以上も増加。東日本大震災をきっかけに2011年から始まった同サービスだが、着実に契約数を伸ばし、現在は1900を超える企業や団体、90万以上のユーザーが利用している。
電子部品大手のTDKや印刷・流通大手のラクスル、情報セキュリティー会社のLACなどのほか東京ガスエネルギー、東葉高速鉄道、多摩モノレールといったインフラ企業、また自治体、医療法人まで利用者の規模・業種・分野は幅広い。
各社の安否確認習熟度を評価
一斉訓練は時間を知らせず実践に近い形式で行い、配信から12時間後までの回答を集計して分析。参加企業へ配る結果レポートには、各社のユーザー(社員など)の回答率の時間推移が平均とともに表示されている。
「安否確認の分析で重要なのは回答するタイミング。レポートでは各社のユーザー回答数が25%、50%、75%に達した時間を表記しています。安否確認サービスに習熟している企業はどの段階も早い時間で達成しますが、例えば25%までは早いが50%に達するまでに非常に時間がかかるようなら、社員の習熟度のバラツキが大きい」
全体で見ると、12時間後の回答率の平均は約80%。参加した648組織の中での各社の位置づけは、最終時点の回答率と50%回答時点の時間を偏差値に変換し、図中に赤いポイントで示している。ポイントが左上にあるほど早く多くの回答が寄せられたということで、安否確認意識のレベルが高い。
今回の訓練では縦軸の回答率の偏差値が50より上で、かつ横軸の50%回答時間の偏差値が50未満のエリアに最も密集したことから、総じてレベルの高い組織が多かったという。
こうした訓練の実施とともに、月次継続率が99%を超える点が評価され、同社の「安否確認サービス2」は2019年に「日本サブスクリプションビジネス大賞」で優秀賞を受賞した。
安否確認のボトルネック
同社によると、一斉訓練の回答率が低い結果に終わったとき、主な原因となるのはメールを受け取る側のサーバーの能力不足や誤った設定だという。瞬間的に送られる大量のメールに、企業のシステム処理能力が追いつかない。また、システム安定のために一定数以上のメール受け取りを拒否しているケースもある。
東日本大震災の際、多くの安否確認システムが正常に機能しなかった理由も、1つはこうしたメールを受け取る側のシステムの問題。普段であれば同じタイミングで大量のメールを受け取ることがないため気づきにくいが、一斉訓練はメールシステムの不備に気づくきっかけになる。
「安否確認サービス2」は、メール受信システムの問題や登録メールアドレスの有効性を調べるため定期的にメンテナンス用のメールを企業に送信、チェックする機能を備えている。「一斉訓練の結果から回答率アップと回答時間短縮が必要だと思われたら、コールセンターに気軽に相談してほしい。メールサーバーの設定確認や問題点の特定、改善点や訓練の提案など、万全なサポート体制でお待ちしています」と前述の平山氏はいう。
試されるサービス
この一斉訓練で試されているのは、参加する企業や団体の安否確認意識だけではない。「安否確認サービス2」もまた試されている。1つは大量の安否確認メールを遅滞なく一斉に送り出せるか、もう1つは安否の回答によって一挙に急増するウェブアクセスに問題なく対応できるかだ。
東日本大震災のときに多くの安否確認システムが正常に作動しなかった理由としてメールを受け取る側の問題を先にあげたが、一方でメールを送る側が原因で安否確認を行えなかったケースも多い。大量の一斉メールが送信されなかった、配信自体が大幅に遅れた、安否確認の入力ページにアクセスが殺到してサーバーがダウンしたケースがそれだ。
そのため同社では、毎分数百万通以上のメールを素早く確実に配信できる「SendGrid(センドグリッド)」というシステムを活用して発災直後に大量のメールを送信。通信トラフィックの混雑を避け、メールの未着を防いでいる。
ユーザーの安否入力にともなって急増するサーバーへのアクセスに対しては、災害を検知してメールの自動送信を行なった段階で容量を自動的にパワーアップさせるシステムを導入、安定した稼働を実現している。
今回の一斉訓練の結果からは、同社が開発当初から力を入れてきた『マニュアルを見なくてもわかる入力』の効果も明らかになった。参加組織数、ユーザー数とも1.6倍以上に増えたにも関わらず、回答入力アンケートの「すぐに分かった」「まあ分かった」を合わせると90%を超え、操作の理解不足による影響はほとんどなし。「分かるまで少し時間がかかった」を加えると99.5%を超え、前回と同水準となった。
想定外にも「強み」を発揮
日本の防災対策は地震や台風、大雨が一般的だが、新型コロナウイルスの流行で状況は一変。不測の事態の発生で、政府をはじめ日本全体が混乱したのは間違いない。しかし、不測の事態が起きたときこそ「安否確認サービス2」の強みが生かされる場面だ。
「安否確認サービス2」は新型コロナウイルス対策においても、社員にマスク着用の依頼を出したり、出社制限を案内したり、体調不良時は出社を控えてもらうよう要請したりといった、重要メッセージを確実に届けるために使われている。急な出社停止など突然の変更にも時間帯に関係なく大量のメッセージを届けられる「安否確認サービス2」の活用の場は広い。検温の報告、海外渡航歴の有無、緊急事態宣言対象地域への移動の有無、家族を含めた体調など、質問の選択肢を自由に作成して加えられる点もメリットだ。
同社は東京都内で感染者が判明しはじめた2月19日、新型コロナウイルス対策向けとして「安否確認サービス2」の無償提供を発表。その後申し込み期間を延長し、4月末日までの申し込みで9月いっぱいの無償提供を行っている(無償利用の申し込みはすで終了)。
情報公開の理由
「安否確認サービス2」のウェブページには現在、訓練のみならず、実際の災害発生時に自動配信が完了した時間が実績として公開されている。サービスのリリース以降、すべての配信実績を公表している企業はほかにないだろう。
これらの情報を公開する理由を平山氏は「サービスに自信があるからです」と力強く話した。当然、配信完了までに時間を要したケースも残っているが、隠しごとなしに全力を尽くす企業姿勢が伝わる。
情報公開に積極的な同社は9月24日、東京証券取引所マザーズ市場への新規上場を果たした。安否確認のサービス開始からまもなく10年を迎えるが、現在も週に1度程度のバージョンアップを重ねている。
「機能に関してはお客様からの要望を踏まえながら追加していき、多くの方から支持されるシステムとなりました。現在は、システムのさらなる安定性向上に力を注いでいます」と語る平山氏。掲示板やグループメッセージ機能など、安否確認の先の情報共有や対策指示機能を備えた「安否確認サービス2」の需要は、これからますます高まりそうだ。