人命安全確保と事業継続の観点から

リスクコンサルティング事業本部コンサルティング部 上席コンサルタント 中島克人
リスクコンサルティング事業本部コンサルティング部 主任コンサルタント 西條聖史

はじめに


2013年3月18日に南海トラフ巨大地震の被害想定(第二次報告)が内閣府より公表され、経済的な被害が盛り込まれた。その中で生産・サービス低下による経済的被害は、基本ケース(※1)で30.2兆円、陸側ケースで44.7兆円と試算された。しかし、防災・減災対策に取り組むことで、経済的被害を基本ケースで23.8兆円、陸側ケースで31.8兆円まで軽減できると試算しており、改めて、防災・減災対策の継続的推進と見直しが求められる。

第二次報告において経済的被害を軽減するための主な対策として、「BCPの策定・充実」「サプライチェーンの多重性・代替性の確保」「施設・設備の耐震化」など7つの対策が挙げられている。その中でとりわけ効果が大きいのは「施設・設備の耐震化」と思われる。施設の耐震対策は行政からの各種支援などもあり各事業体で粛々と進められているが、設備の耐震対策に関しては人命安全確保や事業継続における耐震対策の必要性の認識がまだ低く、対策が後回しになる傾向がある。

そこで本レポート(※2)では、過去の震災の被災データや当社が実施している設備耐震診断サービスを通じて見受けられた事例などから、設備耐震化の必要性について述べる[ここで言う「設備」とは、空調、給排水、電気、消防等に関わる設備(以下、空調、給排水、電気等に係る設備をまとめてユーティリティ設備と称す)と、機械装置、配管等の生産設備を指す]。

1.人命安全確保の観点から見た必要性


製造業の生産現場では、多くの作業者が生産活動に携わっている。設備の耐震対策を実施していない場合、設備の移動・転倒・落下によって作業者が負傷する可能性がある。また、避難経路の阻害により、逃げ遅れが発生する可能性がある。従って生産現場においては、人命を守るためにも生産設備の耐震対策が欠かせない。

非製造業においても同様に、人命を守る観点でオフィスや店舗フロアなどの什器・備品の耐震対策が求められる。また医療機関においては病室、ナースステーションなどの什器・備品対策に加えてユーティリティ設備の耐震対策も必要となる。それらの設備が使用できないことで、人命に関わる医療行為が途絶する事態を避けなければならない。

※1 南海トラフ巨大地震の地震動は5ケースが検討されており、中央防災会議による東海地震、東南海・南海地震の検討結果を参考に設定した「基本ケース」と揺れによる被害が最大となると想定される「陸側ケース」で被害想定が行われている。
※2 本レポートに掲載する写真は当社にて撮影