2014/07/25
誌面情報 vol44
「何人生き残ったかも分からない状況だった」
岩手県の沿岸部、釜石市・大槌町一帯の森林を管理する釜石地方森林組合は、東日本大震災で事務所が被災し、組合長と総務課長を含む5人の職員が犠牲になるなど甚大な被害を受けた。事務所で保管していた各種データや書類などもすべて消失し、震災後、組合の存続は不可能と言われた。近隣の組合との合併などの議論も持ち上がったが、生き残った13人の職員が力を合わせ、事業を再生させた。
「何人生き残ったかも分からない状況だった」。
釜石地方森林組合参事の高橋幸男氏は震災直後の状況をこう振り返る。釜石市内にあった事務所は津波で流され、何人が事務所の中にいたのか、何人が逃げたのか見当もつかなかったという。
震災翌日はどこに事務所があったのかも分からない状況で、組合の貯木場に足を運ぶと、そこで数人の職員に会うことができた。最初の1週間は、集まった職員で手分けをして避難所や病院を歩き回り、13人の組合職員の生存を確認。3月28日には生き残った全員の職員を集め、緊急会議を開いて今後の方針などを話し合ったという。
「事務所もないし、組合にお金がいくら残っているのか、給料が払えるのかも分からない状況。職員には、建設業は復興需要でこの先10年はやっていける。建設業の社長を紹介してやるから移れと話しました」(高橋氏)。
しかし、辞める職員はいなかった。2日後には、再度、全員が仮事務所に集まり、自分たちでできることは何か検討を始めた。
「犠牲になった職員を自分たちの手で見つけたかったし、少しでも地域のために活動をしたいとの思いから、事務所があった場所を中心に、被災地の片付けなどボランティア活動の実施を市に申し入れたんです」と高橋氏は当時を振り返る。
組合が所有している「グラップル」という高性能林業機械は、キャタピラーでどんな険しい道でも動き回れ、大きなくちばしのようなロボットアームで何本もの木材をつかみ上げることができる。事務所があった場所を中心に、グラップルを使いながら津波で発生した瓦礫の撤去作業を始めた。
このボランティア活動に、建設業の下請けという形で予算がつくようになり、少しばかりの生活資金が稼げるようになったという。
東日本大震災では、これまでプレハブメーカーが作ってきた応急仮設住宅とは違い、地元工務店らが木造の応急仮設住宅を各地で建設したが、こうした動きも同組合にとっては追い風になった。徐々に木材の注文は増え、7月以降になると、釜石市に工場を持つ新日鐵住金がバイオマス発電事業を再開。当時の電力不足もあって、燃料となる木材の納入量がこれまでより増え、売上は徐々に回復。被災翌年からは道路整備等に伴う森林の伐採作業が始まり、ほぼ被災前の仕事量にまで戻った。
3月末に全員が集まった時、「モチベーションを下げないために『6カ月で元に戻すぞ』と言ったんです。何の根拠もありませんでしたが、13人の生活を元に戻すためには、そのくらいのスピードが必要で、がむしゃらにやるしかなかったのです。結果的に一致団結して目標が達成できました」(高橋氏)。
地域からの支援も多かった。森林組合は、山林を所有する組合員から山の管理を委託されているが、多くの組合員が「いつでも自分の山を使って良いから頑張れ」と激励してくれたという。
現在は、東京大学の技術支援により、山林の立木一本一本を、レーザーカメラを使って3Dデータとして管理する試みを開始している。この技術により、これまで山から木材を切り出してから市場で売る「プロダクトアウト方式」だったビジネススタイルを、立木の状態で3Dデータとして管理することで注文を受けてから切り出す「マーケットイン方式」へ転換させる試みを始めている。工務店や木材業者のニーズに応じて材を選定して伐採・搬出することで効率化を進めるほか、森林管理に伴う測量や、木材の搬出など伐採計画の策定などもコンピュータ上で簡易に行えるようにする。
日本の林業は、材は豊富なものの外材の輸入などにより価格が低迷し、働き手が少ないことが大きな課題になっている。ここに省力化の技術をぶつけることで、儲かる林業への再生を図り、産業の復興につなげたい考えだ。
現在、同組合が考えているのはアカマツなど特殊材の管理だ。大槌のアカマツは熊本城の梁で使われるほど、古くから優良材として定評がある。同じアカマツでも他の地域の材に比べ重く、色合いもいい。しかし、これまでは材の注文があっても、材の太さや曲がり具合などは切り出してみなくては正確に把握できず、実際に建造物に使えるかどうか分からなかったという。3Dによる山林の管理技術が確立されれば、全国からの注文に応じて適切な材を送り出せるようになると高橋氏は期待する。
もう1つ同組合が考えているのが森林の伐採計画などにこの技術を活用することだ。これまでの森林管理は、その都度山に入って、地形や樹種、樹高などを測って伐採計画を策定するため、熟練の技術と経験を持つ職員の数と、多くの時間が必要とされたが、これらが3D化できれば、大幅に効率化できる可能性がある。
こうした技術により、現状1300haの森林管理面積を今後5カ年で3000haに増やし、森林を所有する組合員に、これまで以上に還元できる体制と、雇用のさらなる確保を目指す。
全国的に斜陽産業と言われる林業だが、同組合は震災後、むしろ活力を増している。その陰には、住民の支援、森林所有者の支援、そして行政や学術機関からの支援がある。その支援を受けられるのは、同組合が被災前から、そして被災後も地域への貢献を最優先してきたからに他ならない。
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