2014/07/25
誌面情報 vol44
多勢を無勢で迎え撃つ
2012年に東京都が発表した被害想定によると、首都直下地震が平日夕方発生した場合の都内の帰宅困難者数は517万人。東京駅周辺ではその一割強にあたる60万人の帰宅困難者が発生すると言われている。2004年、すでにこれらの問題を見通していた東京駅周辺の事業者62社が集まって設立したのが「東京駅周辺防災隣組」だ。一般財団法人都市防災研究所上席研究員で、東京駅周辺防災隣組の事務局長も務める守茂昭氏に地区の防災力と企業の役割について聞いた。
東京都千代田区の東京駅周辺に位置する大手町、丸の内、有楽町(以下、大丸有地区)は、日本を代表する多くの大企業本社が立地し、日本の経済活動の中枢機能が集中する地域だ。数字で表すと、エリア内にある企業はおよそ4200社。このうち東証一部上場企業が約80社集積し、売上高は133兆円で東証一部全体の約3分の1を占める(2011年度末時点)。
この地区のまちづくりを検討する大丸有地区再開発推進協議会が、2002年に「東京駅周辺・防災対策のあり方検討委員会」(座長/現東京大学名誉教授の伊藤滋氏)を設置し、東京都の直下型地震の想定をもとに推計した結果、平日の夕方に大地震が発生した場合、東京駅周辺には60万人を超える帰宅困難者が発生することが明らかになった。
このような想定を踏まえ、2002年に周辺事業者の有志62社で立ち上げたのが「東京駅周辺防災隣組」だ。その後、2004年に、千代田区から「東京駅・有楽町駅周辺地区帰宅困難者対策地域協力会」として行政上の位置づけを受け、区と連携した帰宅困難者避難訓練を開催するなど、まちの防災機能を高めるための活動、災害時における協力体制づくりなどを実施している。
「多勢を無勢で迎え撃つ」
「発足当初は、どの企業もよその人間(帰宅困難者)まで自社施設に受け入れることは難しいという風潮だったが、東日本大震災以降、企業のマインドも変化してきた」(守氏)。大企業の“よその人は関係ない”という気質は社会では受け入れられない時代になっており、自社の利益を損なうことにもなり得る。帰宅困難者対策は社会貢献的な活動ととらえられがちだが、本来は自社の利益を安定させるものであるという。
しかし、帰宅困難者対策は「多勢を無勢で迎え撃つということ」(守氏)。いくら自社の利益を安定させるためとは言え、1社だけで対応ができるものではない。だからこそ、地域の企業が連携して災害時のマニュアル作りや食料備蓄などを進めれば、解決に近づけるのではないか―。企業が主体となり地区防災活動を進める理由は、それぞれの企業を存続させることにある。
やるべきことをルール化
同組では「ビジネス街らしい防災」「事業所間の共助」という考えを取り入れ、商業地域には通行人や就労者が集まることを踏まえて「分からなくてもできる防災」を目指している。
まず、2012年に発災時に滞留者対策の一環として活動するルールの明確化に着手。防災隣組のメンバーで協議を重ね、2011年に「東京駅周辺防災隣組ルールブック」を作成した。ルールブックでは、平常時のルールとして隣組のシンクタンク機能やコーディネーター機能の強化などを定めたほか、発災時のルールとして情報連絡本部の開設基準や発災直後の取り組み内容(行政情報の収集・食糧・飲料水の配布)などを定めている。
誌面情報 vol44の他の記事
- BCP+地域貢献の新たな道 地元住民1500人を受入れ
- 特集1 BCPと地域貢献
- BCPの全体最適化 香川地域継続検討協議会
- 堤外地をBCP連携で守る 愛知県三河港明海地区
- 60万人の帰宅困難者対策 東京駅周辺防災隣組
おすすめ記事
-
家庭の防災は企業BCPとつながっている
昨今は社員の自主防災力向上に努めている企業も多いでしょう。この時期は災害時のルール周知に余念がないと思いますが、ポイントとして提案したいのが、家庭の防災と企業BCP のつながりをしっかり伝えること。「家庭と会社は別」と考えがちですが、家庭の防災力を上げないと企業の事業継続力も上がりません。メッセージを出すよいタイミングです。
2024/05/02
-
企業不正の実態と不正防止対策
本勉強会では、企業不正の実態と不正防止対策について解説していただきました。2024年4月23日開催。
2024/05/01
-
-
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月23日配信アーカイブ】
【4月23日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:南海トラフ地震臨時情報を想定した訓練手法
2024/04/23
-
-
-
2023年防災・BCP・リスクマネジメント事例集【永久保存版】
リスク対策.comは、PDF媒体「月刊BCPリーダーズ」2023年1月号~12月号に掲載した企業事例記事を抜粋し、テーマ別にまとめました。合計16社の取り組みを読むことができます。さまざまな業種・規模の企業事例は、防災・BCP、リスクマネジメントの実践イメージをつかむうえで有効。自社の学びや振り返り、改善にお役立てください。
2024/04/22
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方