洪水や土砂災害で住宅が被災したら
本格的な修復までにすべきこと
中澤 幸介
平成19年に危機管理とBCPの専門誌リスク対策.comを創刊。数多くのBCPの事例を取材。内閣府プロジェクト「平成25年度事業継続マネジメントを 通じた企業防災力の向上に関する調査・検討業務」アドバイザー、「平成26年度地区防災計画アドバイ ザリーボード」。著書に「被災しても成長できる危機管理攻めの5アプローチ」がある。
2018/07/08
平成30年7月豪雨と大阪北部地震
中澤 幸介
平成19年に危機管理とBCPの専門誌リスク対策.comを創刊。数多くのBCPの事例を取材。内閣府プロジェクト「平成25年度事業継続マネジメントを 通じた企業防災力の向上に関する調査・検討業務」アドバイザー、「平成26年度地区防災計画アドバイ ザリーボード」。著書に「被災しても成長できる危機管理攻めの5アプローチ」がある。
台風7号と梅雨前線の影響で、西日本を中心に洪水や土砂災害などの被害が同時多発的に発生している。家屋が浸水した人は、今後どう復旧すればいいのか?
台風7号と梅雨前線の影響で、西日本を中心に洪水や土砂災害などの被害が同時多発的に発生している。家屋が浸水し、避難生活を余儀なくされている方にとっては、今後、自宅をどう復旧すればいいのか、さぞかし心配なことだろう。日本では、水害などで被災した住宅の復旧手順や方法について公的なガイドラインがないが、アメリカでは、1992年に赤十字とFEMA(米国連邦緊急事態管理庁)が「Repairing Your Flooded Home」(洪水被害にあった住居の修理)という小冊子をまとめている。日本とは事情が異なり、すべて参考にできるわけではないが、修復までの過程では、とかく見落としがちがな対策が細かく紹介されている。この小冊子の内容を一部参考にしながら、浸水した家の修復までにすべきことをまとめてみた。
最初に行うべきことは、自分自身を気遣うこと。
大きな水害では、災害後のストレスがたまり、避難生活の疲労も蓄積している。生活環境の悪化に寝不足も重なり、健康被害も受けやすい状態になっている。まずは自分と家族を守ることが何より大切だ。
●家族でなるべく一緒にいるようにする
●家族や友人と話して悩みや相談についても共有する
●十分睡眠をとり、よく食べる
●可能な範囲でやるべきことを整理する(数えきれないくらいやることがあっても書き出して整理してみる)
●自分を含め家族の中にストレスのサインが現れていないか観察する
●もしストレスによる健康被害があるようなら専門機関に早めに支援を求める
●子供たちが何を言っているか耳を傾け、子供たちとなるべく会話を多くする
●おねしょなどをしても、災害の原因かもしれないためガミガミいわない
●健康被害を防ぐために、手洗いを徹底することや飲み水に気を付ける
被災した家に戻ることは危険が伴う。再び大雨が降る可能性もあるし、躯体の損傷や漏電、その他の危険性があることを十分に理解する必要がある。まずは、テレビやラジオでいつなら安全に家に戻れるかを確認すること。不明な場合は行政に確認する。アメリカでは、洪水後の復旧過程で感電死するケースも多いようなので特に注意が必要。日本では最近はハイブリッドや電気自動車も多くなっているが、やはり感電には細心の注意が必要だろう。ただ、今後ボランティアの支援もあるので決して無理をしないことが大切。
家を見に行く際に持っていく物(例)
●懐中電灯
●救急用品(ケガをしたときのため)
●ラジオ(二次災害にあわないようにするため)
●防水ズボン
●防護服、ヘルメット、厚手の皮やゴム手袋
●安全靴
●防塵マスク・ゴーグル
●カメラやビデオ(被害状況を記録するため)
●バールやノコギリ、ハンマー、ペンチ、レンチ、ドライバーなど
●飲み水
●ゴミ袋
●木の棒(物をどかしたり、電気コード類を動かす場合のため)
家に入る前に周辺をよく確認し、躯体が被災しているような場合は入らない。
電線が切れていたり、ガス漏れがないかも確認する。外壁のひびが無いかもチェック。危険なら専門家に事前にチェックを依頼する
家に入れたら、まずやること
●ガスの元栓をしめる(不用意に煙草に火をつけたりしない)
●注意して家に入る(屋根から物が落ちてこないかも確認)
●ドアが開きにくい場合はゆがんでいる可能性があるため、無理にあけると物が崩落する可能性があるため、ドアをあけてしばらくの間、大丈夫か外で待つ。どうしても明かない場合は、窓から入る
●木の棒を使って電気のブレーカーを落とす(感電を防ぐため)
●天井に水が溜まっていないか。水が溜まっている場合は、棒の先で穴をあけ、水を抜く
●スリップに気を付けて家の中を移動(蛇などが入り込んでいる場合もあるので気を付ける)
●まずはお金や通帳、宝石、アルバムなどどうしても必要なものだけ持ち出し、泥を洗い流して乾燥させる
●窓をあけ通気を確保
●泥をかきだす
●床や床下の水をかき出す
●エアコンの室外機やダクトは水で洗い流す(電気は入れない)
修理に向けた大まかな計画をつくる。何におおよそどのくらいかかるのか、いくら程度かかるのか、概算でもいいので考えてみる。
その際、保険や、活用できる支援制度も考慮する。
●保険会社に連絡
●被害状況を撮影しながら、被害を整理する(周囲の状況、中の被害も撮影し記録)
●自分でできること、自分ではできないことを整理
●どこに何を依頼するかを整理
●おおむねいくらぐらい費用がかかるのかも算出
乾燥は、まず通気を確保するとともに、家の中にたまっている水をすべて取り除くことが基本。
※細かな方法は家によって構造も異なるため、以下は基本的なことだけを記載
●窓を開け通気を確保する
●クロゼットやキャビネットなどの家具も開け、水をはきだす
●床や床下にたまった水や泥をかき出す
●扇風機などを使って乾燥させる
●床下にも扇風機で風を送る
●壁の中の水も抜き出す(断熱材なども可能なら除去)
消毒については家の構造の違いもあるので、ここでは東京都目黒区が推奨している方法を紹介する。
日本の場合罹災証明を取り、生活再建支援制度が適用される場合は、支援金などの手続きを行う(どのような支援があるかは自治体に確認)。
また、内閣府では2015年に「被災者支援に関する各種制度の概要」をまとめているので参考にしてほしい。
http://www.bousai.go.jp/kyoiku/pdf/kakusyuseido_tsuujou.pdf
米赤十字とFEMA(米国連邦緊急事態管理庁)が1992年に発行した「Repairing Your Flooded Home」では、この他にも、洪水対策を向上させるための対策なども盛り込んでいるが、最も大切なことは「安全の確保」と強調している。
そのためには、本人だけでなく、周囲も協力し、被災者を支えていくことが大切だ。
(了)
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