事業継続のための代替オフィスなどの活用状況の実態
BCI Workplace Recovery Report 2016
合同会社 Office SRC/
代表
田代 邦幸
田代 邦幸
自動車メーカー、半導体製造装置メーカー勤務を経て、2005年より複数のコンサルティングファームにて、事業継続マネジメント(BCM)や災害対策などに関するコンサルティングに従事した後、独立して2020年に合同会社Office SRCを設立。引き続き同分野のコンサルティングに従事する傍ら、The Business Continuity Institute(BCI)日本支部事務局としての活動などを通して、BCMの普及啓発にも積極的に取り組んでいる。一般社団法人レジリエンス協会 組織レジリエンス研究会座長。BCI Approved Instructor。JQA 認定 ISO/IEC27001 審査員。著書『困難な時代でも企業を存続させる!! 「事業継続マネジメント」実践ガイド』(セルバ出版)
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災害や事故などによってオフィスが使用不能となった場合、事業継続のために一時的に別の執務環境を確保しなければならない場合がある。特殊な設備などを必要としないオフィスであれば、PCが使用できて電話やネットワークが繋がれば必要最低限の業務をこなせる可能性があるため、代替オフィスを借りるとか自宅で仕事をするという選択肢を検討している企業は少なくない。
BCMの専門家や実務者による非営利団体BCI(注1)は、Regus Workplace Recovery社(注2)と共同で、前述のような代替オフィスや在宅勤務による事業継続に関するアンケート調査を実施し、その調査結果を『BCI Workplace Recovery Report 2016』(以下「本報告書」と略記)として2016年10 月に公開した。
なお、報告書のタイトルにある「workplace recovery」をそのまま和訳すると「仕事場の復旧」となるため、読者の皆様の中には「もともと使っていたオフィスを復旧させる」という印象を持たれた方もいらっしゃるかもしれないが、本報告書においては、代替オフィスを利用することや在宅勤務も含めた様々な方法で「失われた執務環境を再び確保すること」をworkplace recoveryと総称されていることにご注意いただきたい。
調査には78カ国の914人が回答しているが、本調査においては回答者を「Experts」(代替オフィス戦略を検討・導入する側の、BCMや災害対応、IT の災害復旧などの担当者)と「End users」(代替オフィスなどで実際に業務を遂行する側の人)に分けて調査を実施している。なお本報告書を読む際には、回答者が欧州に偏っていることに注意されたい。Expertsの53%、End usersの75%が欧州からの回答である(注3)。
まず図 1 はEnd usersに対して、自分の所属している組織において、仕事場の代替のための準備(workplace recovery arrangements)が行われているかを尋ねた結果であり、7 割程度の組織で何らかの準備が行われているようである。
また図 2 は Experts に対して、どのような方法で仕事場の代替場所を準備しているかを尋ねた結果である。23%が例えばRegus Workplace Recovery社のような企業が提供しているバックアップオフィスサービスなどを利用しているのに対して、44%が自前で代替場所を手配すると回答している。
さらに図3は実際に仕事場を代替場所に切り替えた原因となった事象をExperts に尋ねた結果である。2位の「ユーティリティの停止」には電力、水道、ガスなどの供給停止が含まれると思われる。
筆者の個人的な印象として、「テロ行為」によるものが 3%あることが目を引いた。おそらくテロ行為の発生(および発生の可能性)によって地域一帯で外出や移動が規制された影響などを広く含むものと思われる。日本ではあまり切迫感を感じられていないリスクかもしれないが、2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けてテロ行為が発生するリスクが高まると考えられる。日本企業においても自然災害だけでなく様々な可能性を考慮して、代替オフィスや在宅勤務などの選択肢を持っておくことを考えておくべきなのではないだろうか。
本報告書では他にも、代替オフィスや在宅勤務などでしのげる期間の長さや、代替場所を選定する際の優先順位など、様々な観点からの調査結果が含まれている。日本では代替オフィスなどに関するこのような調査結果が、あまり公表されていないのではないかと思われるので、BCM関係者を中心に多くの方々にお読みいただきたいと思う。
■報告書本文の入手先(PDF36 ページ/約3.8 MB)
https://www.thebci.org/resource/workplace-recovery-report-2016.html
注1)BCIとは The Business Continuity Institute の略で、BCMの普及啓発を推進している国際的な非営利団体。1994年に設立され、英国を本拠地として、世界100カ国以上に8000名以上の会員を擁する。http://www.thebci.org/
注2)Regus(リージャス)社は日本を含む世界各国でレンタルオフィスやバーチャルオフィスを提供しており、Regus Workplace Recovery 社はそのグループ企業として、緊急事態発生時の代替オフィス提供に特化してしている。 http://www.regusworkplacerecovery.com/
注3)BCI の調査であり、また代替オフィスサービスは欧州の中でも特に英国において普及が進んでいるようなので、回答者も英国に偏っている可能性があるが、本報告書ではそこまで具体的には記述されていない。
(了)
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