セキュリティ文化の醸成と意識の高度化 ~2020年に向けて私たちにできること~
今あなたがいる場所は安全ですか?
大規模スポーツイベントと空港におけるセキュリティの類似点
Toki's SECURITY Lab./
平川 登紀
平川 登紀
旧姓・宇田川。映画『羊たちの沈黙』のFBI訓練生クラリスに憧れ渡米。ワシントン州立大学大学院で犯罪法学(Criminal Justice)の修士号を取得。帰国後、航空セキュリティ関連の財団法人で、空港保安検査員の研修や保安検査状況の監査を担当し、航空セキュリティに興味を持つ。2007年、東京大学大学院博士課程へ進学し、本格的に航空セキュリティマネジメントの研究をスタート(2011年単位取得満期退学)。2021年に佐賀県唐津市へ移住。現在、フィジカルセキュリティストラテジストおよび航空セキュリティ研究者として活動中。
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先月より、航空保安から学ぶ『大規模イベントセキュリティ』についてお話をしています。今月と来月の2カ月は、多くの人々が集うスポーツイベントと、世界中からの旅行者が交差する空港それぞれのセキュリティ対策について比較をしてみたいと思います。
見ず知らずの人々が世界中から集合
プライベート旅行でもビジネス出張でも、移動のために航空機を利用する時、私たちは空港へ向かいます。そして、目的地までの数時間、時に十数時間という長い時間、航空機という閉ざされた空間の中で見ず知らずの人々と乗り合わせなければなりません。年齢問わず、性別問わず、国籍問わず、宗教問わず、面識のない人々と同じ空間を共有し、目的地へと向かうことになります。
2017年1月から12月までの1年間、日本の主要な玄関口のひとつである成田国際空港では、旅客便と貨物便を合わせた国際線の航空機発着回数は約20万回、国際線に搭乗した旅客数は、日本人・外国人・トランジット客を合わせると3000万人を超えています。
年間にこれほど多くの人々と貨物が成田を目的地とし、また経由し、世界中を飛び回っています。
一方、大きなスポーツイベントに参加するときを考えてみてください。選手であっても観戦者であっても、そのイベントへの参加が目的である場合、私たちは開催地であるスタジアムへ向かいます。そして、イベントが終了するまでの数時間、会ったことのない多くの人々と同じ空間を共有します。あら、航空機を利用する場合と似ていませんか?
2016年のリオオリンピックでは、200以上の国と地域から1万1000人を超える選手が熱戦を繰り広げ、その観戦のためにブラジル国内および海外から117万人の人々がリオに集結しました。
今、寒い平昌で熱い戦いが繰り広げられていますが、この冬季オリンピックの次は、2020年東京で夏のオリンピックが開催されます。このときの観客動員数は約1000万人、会場来場者は1日当たり92万人と推定されています。表1.で示した2017年の成田空港利用者数と比べてみると、年間利用者の約1/3が2020年夏のたった2週間のオリンピック期間中に東京へ大集合するということです。(ちなみに、東京都の人口は、2018年1月1日の時点で1375万人です。)
航空機に搭乗する旅客は世界中から空港へ、スポーツの観戦者は世界中からそのイベント会場へ、続々とやってきます。目的地が同じである者は同じ航空機に乗り合い、目的のゲームが同じである者は同じスタジアムに集い、それぞれ同じ時間と空間を赤の他人と共有することになります。
その中に自分がいたら・・・?
航空機の場合は数百人、スタジアムの場合は数万人の人々と、少なくとも数時間は一緒にいなければなりません。その空間にいる全員があなたの知り合い、ではないですよね。そのとき、そこはあなたにとって、安全な空間であるといえるのでしょうか?
安全空間を提供するセキュリティ
誰だか全く知らない人たちだけれど目的達成のために一緒にいなければならない、、、とはいえ、その場所の安全が確保されているという安心感がなければ、多くの人はその場からすばやく立ち去りたいと感じるでしょう。危険な場所から逃れたい願うのは人間の本能です。
航空機という密室に私たちが抵抗なく乗り込むことができるのは、セキュリティが適切に実施されていると信じているからです。まったく知らない人と席が隣り合わせになっても、目的地まで爆睡することができるのは、自分と同じ保安検査をこの空間にいる全員が受けていることを知っているからです。
同じく、オリンピックのような国際的なスポーツイベントが実施される巨大なスタジアムに何万人が集合しても、私たちがその場所を楽しむことができるのは、しっかりとしたセキュリティが行われているからこそです。特に2012年にオリンピックが開催されたロンドンでは、スタジアムにおけるセキュリティを徹底的に実施しました。
保安検査を受けた後のエリアは、クリーンエリアとして扱われます。そこは検査を確実に受けた人々のみ入ることが許される空間なのです。このクリーンエリアを作るために、ロンドンオリンピックではスタジアムの各ゲートに金属探知機およびX-rayを設置しました。
表3.のようにまとめると一目瞭然、ロンドンオリンピックのスタジアムセキュリティは、運用面を含めて、空港の保安検査とほぼ同じ要領で実施されました。空港での保安検査のようなチェックは、一般的な生活の中で受けることはまずありません。しかし、空港と同じセキュリティを実施していると聞けば、どのような検査を行っているのかほとんどの方がイメージできると思います。スタジアムでのそれを厳しいと感じるか、まだ甘いと捉えるかはそれぞれの判断ですが、検査を通過したクリーンエリアにいる人々は、全員が自分と同じレベルのセキュリティを受けてきたと私たちはわかっています。危ないものを持っている人はいない、と信じるからこそ、見ず知らずの何万人の人々と同じ空間にいても、その場所を安心して楽しむことができるのです。
今月は、スポーツイベントと空港におけるセキュリティの類似点を並べてみました。来月は、似ている点は多々あれど・・・似て非なるセキュリティの相違点について説明をします。
ご意見・ご感想をお待ちしております。
(了)
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