(出所)BCI Emergnecy Communications Report 2017 表紙から

BCMの専門家や実務者による非営利団体 BCI(注1)は、緊急連絡システム(注 2)のプロバイダーの一つである Everbridge 社(注 3)と共同で、緊急事態におけるコミュニケーションに関する実態調査を 2014 年以降毎年実施し、その調査結果を公開している(注 4)。今年も同じ調査が実施され、その結果が 12 月に「Emergency Communications Report 2017」(以下「本報告書」と略記)として公開されたので紹介する。なお調査は前回同様、BCI 会員を中心として Web サイトによるアンケートで行われ、70 カ国の 570 人から回答を得ている。

本報告書において最初に示されているデータは、回答者が所属する組織が「緊急事態コミュニケーション計画」(emergency communications plan)を持っているか?という設問に対する回答で、回答者の 86% が「ある」と回答している。この数字は 2014 年以降ほとんど変化がないが、計画を持っていない組織に対してその理由を尋ねた結果には変化が見られる。計画を持っていない組織の 23% が「経営層のサポートが無いため」と回答しているが、これは前年から 12 ポイント増加している。このような変化が生じた理由は不明だが、本報告書では憂慮されるポイントのひとつとして指摘されている。

また、図 1 は実際に緊急事態コミュニケーション計画が発動された事象について尋ねた結果であり、気象関連のインシデントが最も多い。これを図 2(実際に組織に悪影響を与えた事象)と比較しながら見ると、実際に発生した事象と緊急事態コミュニケーション計画が発動された事象との間に若干の違いがあることが分かる。

図 1, 緊急事態コミュニケーション計画を発動する契機となった事象(複数回答) (出所)BCI Emergnecy Communications Report 2017
図 2, 実際に組織に悪影響を与えた事象(複数回答) (出所)BCI Emergnecy Communications Report 2017

なお、本報告書で特に注目されていることの 1 つは、物理的セキュリティを担当する部署が緊急事態コミュニケーション計画の担当部署となるケースが増えてきたことである。緊急事態コミュニケーション計画の維持管理をどの部署が行っているかを尋ねる設問に対しては、BCM 担当部門が 65% でトップ、これに広報部門が 30% で続いているが、3 位にセキュリティ部門が入っている(19%)。

2016 年版ではセキュリティ部門は 7% で 5 位であった。この点について本報告書では、物理的セキュリティに関する懸念が増加した結果であろうと指摘されている。

他にも本報告書では、国内・国外出張における緊急連絡や、緊急連絡に関する演習など様々な観点からの調査結果が紹介されているので、このような分野にご興味をお持ちの方にはご一読をお勧めしたい。

なお、BCI は 2017 年 11 月に Web サイトを全面的にリニューアルし、それに伴い資料公開の方針やダウンロード手続きが変更された。BCI 会員ならばもちろん会員として Web サイトにログインすれば自由にダウンロードできるが、非会員の方々はまず Web サイトにアカウント登録(無料)(これで BCI の会員となる訳ではない)を行い、そのアカウントでログインしてから下記リンク先にアクセスする必要があるので注意されたい。

■ 報告書本文の入手先(PDF 36 ページ/約 16.4 MB)
https://www.thebci.org/resource/emergency-communications-report-2017.html

注 1)BCIとは The Business Continuity Institute の略で、BCMの普及啓発を推進している国際的な非営利団体。1994年に設立され、英国を本拠地として、世界100カ国以上に8000名以上の会員を擁する。http://www.thebci.org/

注 2) 英語では emergency notification system もしくは mass notification system などと呼ばれ、事故や災害などが発生したことを、多数の関係者にメールや SMS などで自動通報するシステムの総称。機能としては日本で普及している安否確認システムに近いが、安否確認よりも、緊急事態が発生したことを多数の従業員に知らせたり、緊急対応チームを招集したりすることを主目的として開発されている。

注 3) http://www.everbridge.com/

注 4) 本報告書の 2014 年版については、紙媒体の『リスク対策.com』vol. 48(2015 年 3 月発行)の連載記事「レジリエンスに関する世界の調査研究」第 7 回で紹介させていただいた。また 2016 年版については本連載の 2017 年 6 月 27 日掲載分で紹介させていただいた。
http://www.risktaisaku.com/articles/-/3158

(了)