サプライチェーンにおけるトラブルの発生状況や対策に関するトレンドを知る
BCI Supply Chain Resilience Report 2016
合同会社 Office SRC/
代表
田代 邦幸
田代 邦幸
自動車メーカー、半導体製造装置メーカー勤務を経て、2005年より複数のコンサルティングファームにて、事業継続マネジメント(BCM)や災害対策などに関するコンサルティングに従事した後、独立して2020年に合同会社Office SRCを設立。引き続き同分野のコンサルティングに従事する傍ら、The Business Continuity Institute(BCI)日本支部事務局としての活動などを通して、BCMの普及啓発にも積極的に取り組んでいる。一般社団法人レジリエンス協会 組織レジリエンス研究会座長。BCI Approved Instructor。JQA 認定 ISO/IEC27001 審査員。著書『困難な時代でも企業を存続させる!! 「事業継続マネジメント」実践ガイド』(セルバ出版)
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BCMの専門家や実務者による非営利団体である BCI(注1)は、チューリッヒ保険グループ(注2)と共同で、2016年11月に「Supply Chain Resilience Report 2016」(以下「本報告書」と略記)という調査報告書を公開した。BCI は 2009 年から同様の調査を毎年実施して調査報告書を公開しており(注2)、今回報告する報告書はそれの 2016 年版である。調査は前回同様、BCI 会員を中心として Web サイトによるアンケートで行われ、64 カ国の 526 人から回答を得ている。
図 1 は、過去 12 ヶ月間にサプライチェーンに関連してどのようなトラブルを経験し、どの程度影響を受けたかを尋ねた結果である。影響の程度は主観的な評価だが、IT 関連のトラブルによる影響を受けた組織が多いことが分かる。「計画外の IT または通信の停止」は 5 年連続でトップであり、かつ大きな影響を受けたという回答が多い。
本報告書で特に注目されているのは、「為替レートの乱高下」が前年の 20 位から大幅に順位を上げて 7 位となったことである。これは英国の EU 離脱に関する国民投票の結果に起因する、為替レートの変動による影響だと考えられている(注 3)。
また「テロリズム」が調査開始以来はじめて上位 10 位に入ったことにも注目されている。一方で「企業倫理に関する事故(business ethics incident)」や「信用の欠如(lack of credit)」が順位を下げ、上位 10 位から外れている。
なお本報告書の「Annex」(付録)には、地域別や業種別の集計結果も掲載されているので、ご興味のある方は報告書本文をご参照いただければと思う。
また本報告書では、前年の調査結果と比較して特に次のような点に注目されている(注 4)。
(1) サプライチェーンの途絶に関してソーシャルメディアで否定的な議論やコメントがあったという回答が 24% あり、前回調査時における 15% から増加した。
(2) サプライチェーンに関するトラブルが発生した結果として、レピュテーションに関する悪影響があったという回答が 38% あり、前回調査時における 27% から大幅に増加して調査開始以来最高となった。
(3) サプライチェーンを対象とするリスク管理においてトップマネジメントのコミットメントは非常に重要であるが、大企業よりも中小企業の方が、トップマネジメントのコミットメントが比較的高い。
(4) 主要なサプライヤにおける事業継続への取り組みを理解するための方法として、半数以上の回答者が「BCP だけでなく BCM プログラムを確認する」と答えており、また半数近くが「ISO 22301 のような規格との整合性を確認する」(認証の取得を求めている訳ではない)と答えている。これも毎年少しずつ増加している。
なお、本報告書はここ数年、BCI が 11 月上旬にロンドンで毎年開催している「BCI World Conference and Exhibiton」というイベントで発表されているので、今年も恐らく同イベントで 2017 年版が公開されるのではないかと思う(注 5)。今後も引き続き調査結果に注目していきたい。
■ 報告書本文の入手先(PDF 44 ページ/約 3.9 MB)
http://www.thebci.org/index.php/bci-supply-chain-resilience-report-2016
注 1) BCIとは The Business Continuity Institute の略で、BCMの普及啓発を推進している国際的な非営利団体。1994年に設立され、イギリスを本拠地として、世界100カ国以上に8000名以上の会員を擁する。
http://www.thebci.org/
注 2) 本報告書の 2013 年版については、紙媒体の『リスク対策.com』vol. 42(2014 年 3 月発行)の連載記事「レジリエンスに関する世界の調査研究」第 1 回で紹介させていただいた。また 2009 年から 2015 年までの 7 年間の調査結果を総括する記事を、同連載の第 14 回(vol.55 / 2016 年 5 月発行)に掲載していただいた。
注 3) アンケート調査が実施されたのは 2016 年 5~7 月であり、EU 離脱に関する国民投票が実施されたのは同年 6 月 23 日であった。また、「為替レートの乱高下」による影響を受けたという回答は、欧州で特に多かったという。
注 4) 本報告書に記載されている多くの調査分析結果からこれら 4 件を選んだのは筆者の主観による。
注 5) 今年は 11 月 7、8 日の 2 日間、ロンドンで開催される。詳しくは特設サイトを参照されたい。
http://www.bciworld2017.com/
(了)
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