2017/07/11
防災・危機管理ニュース
東京都は10日、「首都災害医療センター(仮称)基本構想検討委員会」の第7回会合を開催した。現地建て替えか移転かで揺れる基幹災害拠点病院である、渋谷区の都立広尾病院の再整備について、病院の機能を中心とした整備方針である報告書と別に、再整備場所の希望について「意見書」という形でまとめることとなった。整備方針では災害対応機能の大幅拡充が盛り込まれる。
広尾病院は1980年に竣工。老朽化のために建て替えることとなり、2015年に閉館の同区青山にある「こどもの城」の土地に移転する方向で、2016年度予算に同国有地購入費用370億円が計上された。しかし経緯が不透明だとして、2016年12月に小池百合子知事が白紙の意向を示していた。
移転建て替えについては現在の478床の維持や災害拠点機能強化、工事中の病院機能維持といったメリットがあるとして進められてきた。一方で現在地での建て替えの場合、病院機能は一時的に落とさざるをえないが、慣れた地で事業を継続できるほか、ヘリポートの運用が青山より行いやすいといった利点もある。
この日の会議でも「税金の無駄遣いは避けるべきで、災害時対応も病院単体でなく周辺病院との連携も考えるべき」「規模が小さくなっても体制をしっかり整えればいいのでは」など様々な意見が出た。
山本保博委員長(一般財団法人・救急振興財団会長)は「この委員会で候補地を決めるわけではないが、意見書には載せることになる」と会議後述べた。都病院経営本部では委員の意見を調整したうえで、今月中に次回会合を開き再整備場所の希望について記載した意見書案を提示する。
この日提示された議論のまとめの骨子案では、広尾病院が災害医療の拠点として都内外の災害に災害派遣医療チーム(DMAT)や医療救護班を派遣。さらにヘリポートを備え島しょ医療の拠点にもなっていることなども踏まえ、1.「首都災害医療のベースキャンプ」としての機能強化2.求められる医療・役割に即応できる「診療体制・機能の重点化」3.地域医療の将来を見据えた「地域貢献モデル」の発信4.都民の納得が得られる「持続可能な病院運営」の実現―の視点から課題を整理し、整備方針をまとめることが示された。
災害医療の機能強化では現在の課題として災害拠点病院には平時の2倍程度の入院患者受け入れが必要なのに対し、現状は1.25倍にとどまること、災害対策本部やトリアージスペースといった災害時に確保すべきスペースが圧倒的に不足している点、NBC(核・生物・化学)災害に対応するための除染テントやシャワーがあるが、貯水設備がない点などが挙げられた。一方で現敷地の容積率は317%なのに対し、現在の施設は210%と敷地のポテンシャルを利用しきれていない。
整備方針として、建物の配置や院内スペースの転用性を高め、災害時用のスペースを確保。NBC災害への対応強化へ専用貯水槽付きの除染シャワーも整備する。また病床利用率が2年連続で70%以下となっている経営面の視点も踏まえ、現在の478床から400床に縮小。現在の場所で再整備の場合は容積率のさらなる活用や、看護学校スペースの転用で、災害時は平時の2倍の入院患者を受け入れられるようにする。
さらに外科・整形外科・形成外科・脳神経外科で構成する外傷センターを設置し、重篤なけがに対応する災害・医療救急体制を強化。島しょ地域についてはヘリポート以外にウェブ会議による診療システムを構築し、患者に遠距離を感じさせないサポートを目指す。
(了)
リスク対策.com:斯波 祐介
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/01/05
-
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2024/12/24
-
-
-
能登の二重被災が語る日本の災害脆弱性
2024 年、能登半島は二つの大きな災害に見舞われました。この多重被災から見えてくる脆弱性は、国全体の問題が能登という地域で集約的に顕在化したもの。能登の姿は明日の日本の姿にほかなりません。近い将来必ず起きる大規模災害への教訓として、能登で何が起きたのかを、金沢大学准教授の青木賢人氏に聞きました。
2024/12/22
-
製品供給は継続もたった1つの部品が再開を左右危機に備えたリソースの見直し
2022年3月、素材メーカーのADEKAの福島・相馬工場が震度6強の福島県沖地震で製品の生産が停止した。2009年からBCMに取り組んできた同工場にとって、東日本大震災以来の被害。復旧までの期間を左右したのは、たった1つの部品だ。BCPによる備えで製品の供給は滞りなく続けられたが、新たな課題も明らかになった。
2024/12/20
-
企業には社会的不正を発生させる素地がある
2024年も残すところわずか10日。産業界に最大の衝撃を与えたのはトヨタの認証不正だろう。グループ会社のダイハツや日野自動車での不正発覚に続き、後を追うかたちとなった。明治大学商学部専任講師の會澤綾子氏によれば企業不正には3つの特徴があり、その一つである社会的不正が注目されているという。會澤氏に、なぜ企業不正は止まないのかを聞いた。
2024/12/20
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方