2017/05/26
防災・危機管理ニュース

内閣府を中心とした政府の中央防災会議は26日、防災対策実行会議「南海トラフ沿いの地震観測・評価に基づく防災対応検討ワーキンググループ(WG)」の第5回会合を開催。南海トラフ地震について予知できないことを前提に、4ケースを想定し、切迫度や危険性に応じた対応のレベル分けなどを盛り込んだWGのとりまとめの方向性案を提示した。また地震の観測・評価体制と防災対応の実施に必要な体制・仕組みについて議論が行われた。
とりまとめの方向性案は、現在の科学では地震の規模や発生時期を高確度で予測することは困難という前提。そのうえで1.南海トラフの東側だけでM(マグニチュード)8クラスの大規模地震が発生2.大規模地震よりは一回り小さいM7程度の規模の地震が発生3.2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)に先行して観測された現象と同様の現象が多種目で観測された場合4.東海地震の判定基準とされるようなプレート境界面でのすべりが観測された場合―の具体的な4ケースを想定。そのうえで防災対応の基本的な考え方として、津波の到達など切迫度や脆弱性に応じたレベル化した対応を準備しておくべきとした。
地震の観測・評価体制の検討では現在の制度では、気象庁は前述のケース2が起こった場合であれば津波や土砂災害、家屋倒壊といった注意、地震から1週間程度は震度7の地震が発生する危険性のほか、「この海域では1944年の昭和東南海地震や1854年の安政東海地震などM8クラスの大地震が繰り返し発生している」といった過去事例も発表される。
議論では「過去事例の提示では危機感が伝わらない。今後に備えるべき警告として発表すべきでは」のほか、「特にケース1と2の場合、発災前の被害想定が重要」との意見が出された。政府では南海トラフ地震で、複数の学識経験者から常時助言を受けられ、現象を緊急に評価できるような体制づくりが必要ではないかと提案を行った。
防災対応の実施に必要な体制・仕組みについては、大規模地震対策特別措置法(大震法)が地震予知を前提とした内容となっている。例えば首相の行動では、気象庁長官から地震予知情報の報告を受け、対策実施の緊急の必要性がある場合に首相が警戒対策を発信し、対策がとられる。議論では「高い精度での予知が前提の大震法は見直すべき」「地震が起こるギリギリまで予知の期待を残すのはよくない」といった疑問の声が出された。
WGではこの日の議論を踏まえ、地震の観測・評価体制と防災対応の実施に必要な体制・仕組みについて、とりまとめにどう盛り込むか検討を行う。
■関連記事「地震対策、リスク度合いでレベル分け」
http://www.risktaisaku.com/articles/-/2532
(了)
リスク対策.com:斯波 祐介
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/03/11
-
-
DXを加速するには正しいブレーキが必要だ
2月1日~3月18日は「サイバーセキュリティ月間」。ここでは、企業に押し寄せているデジタルトランスフォーメーション(DX)の波から、セキュリティーのトレンドを考えます。DX 時代のセキュリティーには何が求められるのか、組織はどう対応していくべきか。マクニカ ネットワークスカンパニー バイスプレジデントの星野喬氏に聞きました。
2025/03/09
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/03/05
-
-
-
トヨタが変えた避難所の物資物流ラストワンマイルはこうして解消した!
能登半島地震では、発災直後から国のプッシュ型による物資支援が開始された。しかし、物資が届いても、その仕分け作業や避難所への発送作業で混乱が生じ、被災者に物資が届くまで時間を要した自治体もある。いわゆる「ラストワンマイル問題」である。こうした中、最大震度7を記録した志賀町では、トヨタ自動車の支援により、避難所への物資支援体制が一気に改善された。トヨタ自動車から現場に投入された人材はわずか5人。日頃から工場などで行っている生産活動の効率化の仕組みを取り入れたことで、物資で溢れかえっていた配送拠点が一変した。
2025/02/22
-
-
現場対応を起点に従業員の自主性促すBCP
神戸から京都まで、2府1県で主要都市を結ぶ路線バスを運行する阪急バス。阪神・淡路大震災では、兵庫県芦屋市にある芦屋浜営業所で液状化が発生し、建物や車両も被害を受けた。路面状況が悪化している中、迂回しながら神戸市と西宮市を結ぶ路線を6日後の23日から再開。鉄道網が寸断し、地上輸送を担える交通機関はバスだけだった。それから30年を経て、運転手が自立した対応ができるように努めている。
2025/02/20
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方