災害から命を守れ ~市民・従業員のためのファーストレスポンダー教育~
【第7章】 市民レベルの捜索・救助活動(前編)
的確な状況判断能力を養い、知識と技術を習得することが重要
株式会社日本防災デザイン /
CTO、元在日米陸軍消防本部統合消防次長
熊丸 由布治
熊丸 由布治
1980年在日米陸軍消防署に入隊、2006年日本人初の在日米陸軍消防本部統合消防次長に就任する。3・11では米軍が展開した「トモダチ作戦」で後方支援業務を担当。現在は、日本防災デザインCTOとして、企業の危機管理コンサルや、新しい形の研修訓練の企画・実施を行う一方、「消防団の教育訓練等に関する検討会」委員、原子力賠償支援機構復興分科会専門委員、「大規模イベント開催時の危機管理等における消防機関のあり方に関する研究会」検討会委員、福島県救急・災害対応医療機器ビジネスモデル検討会委員、原子力総合防災訓練外部評価員、国際医療福祉大学大学院非常勤講師、(一社)ふくしま総合災害対応訓練機構プログラム運営開発委員長等の役職を歴任。著作:「311以後の日本の危機管理を問う」、オクラホマ州立大学国際消防訓練協会出版部発行「消防業務エッセンシャルズ第6改訂版」監訳、「危険物・テロ災害初動対応ガイドブック」等。
熊丸 由布治 の記事をもっとみる >
X閉じる
この機能はリスク対策.PRO限定です。
- クリップ記事やフォロー連載は、マイページでチェック!
- あなただけのマイページが作れます。
前回の連載では災害救護(2)として、現場での衛生管理、処置エリアの設定方法、要救護者の全身観察の手法と搬送方法について解説した。今回の連載では市民レベルの捜索・救助活動について解説する。第5章の連載で「自助の力と盲点」に関し説明したが、重要な部分なので改めて再度強調したい。
自助・共助の力と盲点
『95%』この数字は阪神・淡路大震災で近隣住民や通行人により救助された被災者の割合を表す数字である。まさしく自助・共助が重要であることを示している数字ではあるが、その反面では大変な悲劇を招く危険が潜んでいる。阪神・淡路大震災での正確なデータがないので、メキシコ大震災のデータを引用する。1985年9月19日にメキシコで発生したマグニチュード8.0の地震は1万人以上の犠牲者を出し、全・半壊の建物は約9万8000棟に及んだ。犠牲者の数で言うと阪神淡路での6434人を上回る規模だ。同じようにこの震災でも近隣住民による救出活動により800人以上の市民が救出されたが、救出に向かった約100人の一般市民がその尊い命を2次災害で失った。ここに自助・共助の「力」「盲点」とがあるということである。要約すると「生存者は自発的に自らの知識で危険を顧みず、救助活動を行う」という、この前提をよく認識しなければならない。
特に、南海トラフや首都圏直下型の大地震の可能性が高まってきている中で、建物倒壊により多くの要救助者が発生するケースが予測される。
また、大規模災害に限った話ではなく、水難事故においても助けに行った者が2次災害で亡くなるケースが大変多いことも読者の皆様には周知の事実だろう。そのような悲劇を起こさないためにも、救助する側の人間は、たとえ一般市民であろうとも的確な状況判断能力を養い、知識と技術を習得していかなければならないのだ。この章では特に災害時において、一般市民がどこまでの捜索・救助活動をやるべきなのか? またはやるべきではないのか? などの引き際を明確にすると同時に、救助活動を円滑に実施するための原則や技術に焦点をあてて説明していく。
サイズアップ(活動判断)
市民における救助活動は、①最小限の時間で最大限の人を救出すること、②歩行可能な要救助者から優先的に救出すること、③次に挟まれている要救助者を救出すること、④救助者の安全が第一であること、の4つを目的として行うことが重要である。救助活動が効果的に行われるためには、的確な活動判断を行い、救助者の安全を確保してから要救助者を救出しなければならない。
第4章でも説明したが、火災防護同様、市民レベルの捜索・救助活動においてもサイズアップ(活動判断)を正しいプロセスに従い実践しなければならないのである。
1.情報収集
a) 災害発生時間と曜日:捜索・救助活動では、発生時間と曜日は状況評価を行うために重要な要素になる。例えば夜間や週末であれば要救助者は家にいる確率が高く、捜索・救助活動は住宅エリアから優先的に実施しようという意思決定の手助けになるということだ。
b) 建物構造:被災している建物構造により、被害の程度や損壊のパターンに違いが出てくるため、捜索・救助活動の難易度や実施内容は変わってくる。
c) 建物の使用目的:被災している建物は住宅なのか、劇場など多くの人がいる建物なのか、あるいは工場なのか、など建物の使用目的によって捜索・救助活動を実施する際の、優先事項や戦術も変わってくる。
d)天候:天候の状態により捜索・救救助活動の難易度は変わってくる。
e) ハザード:例えば被災した建物でプロパンガスの漏れがあれば、捜索・救救助活動を開始する前にバルブを閉めるなどの措置が必要になってくるので、救助者はいち早くあらゆる種類のハザード(危険)を考慮に入れなければならない。
2.損害の見積もり
建物の損害を見積るときは建物を全方向からしっかりと観察しなければならない。また損害の状況を現場指揮官へ報告する際は、建物の正面から各壁面を時計回りにA、B、C、Dと決めておけばコミュニケーションが円滑に行える。例えば建物Bサイド壁面にひび割れありのように報告すれば、現場を見ていないチームメンバーにも、その状況がイメージし易くなる。
a) 軽度なダメージ:建物の外装が一部剥がれ落ちている、壁に若干ひびが入っている、窓ガラスが割れている、建物の内壁や家具にダメージがある、このような軽度なダメージの場合、市民レベルの救助隊は現場に赴き、要救助者に対して必要な措置を施すことができる(図a)。
b) 中度なダメージ:建物の基礎や主要構造体はしっかりしているが、屋根の一部や装飾部材が落ちていたり、壁に多くのひびが入っていたり、建物内部の家具が多く損傷していたりしているような中規模のダメージの場合、市民レベルの救助隊は建物内での活動時間を最小限にして、要救助者に対し必要な措置を施すことができる(図b)。
c) 重度なダメージ:建物の一部、あるいは全部が倒壊、建物が傾いている、基礎や主要構造部が損傷しているような重度のダメージの場合、市民レベルの救助隊は警戒線を引き、建物内への立ち入り禁止を促す。市民救助隊は捜索(検索)救助活動は実施してはならない(図c)。
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方