セキュリティ文化の醸成と意識の高度化 ~2020年に向けて私たちにできること~
身近なセキュリティ『航空セキュリティ』について
0.01%のリスクに対処する
Toki's SECURITY Lab./
平川 登紀
平川 登紀
旧姓・宇田川。映画『羊たちの沈黙』のFBI訓練生クラリスに憧れ渡米。ワシントン州立大学大学院で犯罪法学(Criminal Justice)の修士号を取得。帰国後、航空セキュリティ関連の財団法人で、空港保安検査員の研修や保安検査状況の監査を担当し、航空セキュリティに興味を持つ。2007年、東京大学大学院博士課程へ進学し、本格的に航空セキュリティマネジメントの研究をスタート(2011年単位取得満期退学)。2021年に佐賀県唐津市へ移住。現在、フィジカルセキュリティストラテジストおよび航空セキュリティ研究者として活動中。
平川 登紀 の記事をもっとみる >
X閉じる
この機能はリスク対策.PRO限定です。
- クリップ記事やフォロー連載は、マイページでチェック!
- あなただけのマイページが作れます。
2001年9月11日、米国同時多発テロが起きた瞬間、自分がどこにいて何をしていたのか、はっきりと思い出せる人は少なくないと思います。ハイジャックされた飛行機が高層ビルに突っ込む瞬間、ニューヨークの空に向かってのびる2つのランドマークタワーが崩れていく瞬間を、私たちは目撃しました。テロ発生直後から、米国を中心に空港のテロ対策は強化され続けています。しかし、依然テロの脅威は世界中で存在しています。グローバル化が進み、飛行機によって人やモノの往来が自由かつ容易となった今日、日本も国際テロのターゲットのひとつになっています。
2020年には世界中の視線が集まる大規模なスポーツイベントが東京で開催されます。華々しい開会式から次の開催地へフラッグを渡す閉会式まで、国内外からこのイベントを目当てに多くの観戦者・観光客が東京へ集まってきます。さて、みなさまに質問です!世界中からやってくる人々は、全員が善人でしょうか?それとも、みな悪人でしょうか?全員の持ち物は安全でしょうか?それとも、すべてが危険物でしょうか?
すべての人が善人、持ち込む荷物も全く問題ない、ということが証明されていれば、空港での保安検査は必要ありません。逆に、全員が悪人ですべてのモノが危険な品であれば、その対応は警察に任せ、やはり保安検査の必要はありません。善か悪、どちらかに偏っていれば、対応は簡単です。私たちも空港で検査のための列に長時間並び、保安検査員に身体を触られたり、荷物を開けられたりすることもありません。
言うは易し、現実世界においてなんのチェックもせずに100%善人との判断は困難です。99.99%の人が善人で、99.99%の荷物が安全であっても、0.01%に不審があれば、私たちはリスクを負うことになります。飛行機の場合、100%安全に飛ぶことはできませんし、私たちも安心して飛行機に乗り込めません。安全と安心を作り出すために、出発地の空港では保安検査を実施しています。コートを脱ぐ、パソコンを出す、金属品を外す、など、検査を受ける側にとっては面倒で気分を害することも多々あります。しかし、保安検査は、航空機の安全運航と私たちの安心のために必要な、航空保安における最後の砦となっています。
航空保安は、不法妨害行為に対する民間航空の防護を意味しています。不法妨害行為とは、飛行機のハイジャック、制限区域内への侵入、機内や空港内への武器や危険物の持ち込み、テロや犯罪行為、混乱させるために偽情報を流すといった行為のことです(国際民間航空条約第17付属書より)。これらの不法妨害行為を防ぎ、飛行機の安全運航を徹底するために、空港で私たちは保安検査を受けることになっています。
2009年に静岡空港、2010年に茨城空港がオープンし、日本には現在大小あわせて97の空港があります。日本の国土に都道府県の約2倍の空港があり、24時間運用されている眠らない空港もあります。空港という性格上、不特定多数の人と荷物の往来は激しく、知らない人と知らない荷物が空港で混じり合います。そして、それらの知らない人と知らない荷物を載せた飛行機が目的地まで自分と一緒に旅をすることになります。国際空港は世界中の都市と結ばれています。日本の成田・中部・関西・羽田といった大国際空港には一日に何万人もの利用客が出入りし、誰が不審者で、何が不審物か、瞬時に判断することは困難です。すべての人と荷物を安全に目的地まで送り届けるために、適切な航空保安体制が構築され、厳格な保安検査が実施されています。
今日、空港だけではなく、鉄道やバスといった一般交通機関、重要インフラ施設、さらに人々の多く集まる、マーケットやスタジアムなどもテロリストのターゲットになっています。航空分野のセキュリティモデルは、セキュリティ向上を目指す他分野にも応用が可能です。鉄道や港湾においても航空セキュリティに倣ってセキュリティに関するルールが作られ、現場には資機材の導入・設置が進んでいます。こうしたハード面は2020年に向かって今後著しく整備されていくと考えられます。一方、ソフト面の整備はどうでしょうか?世界中から善悪入り乱れていろいろな人が日本にやってくる2020年、警備員やセキュリティ関係者だけですべての事態を未然に防ぐことはできませんし、全部の事後対応も不可能です。そのため、私たちひとりひとりがセキュリティ意識を高めていく必要があります。
最後に・・・今連載の主軸は航空セキュリティになりますが、航空分野だけではなく、鉄道・港湾・道路等の交通・輸送事業者、重要施設のセキュリティ関係者の皆様へ、さらにセキュリティとは無縁と思っている方々も、「セキュリティとは?」と今一度考えるきっかけになれば、と考えています。今後、セキュリティの現状、日本以外の国で実施されている航空セキュリティや内部脅威対策、2020年に向けたセキュリティ、セキュリティ文化の醸成と私たち自身の意識の高度化について、まとめていきます。みなさまからのご質問、ご意見、ご指摘等、ウエルカムです。連載内で、または個別に回答させていただきながら、セキュリティについての議論をみなさまと深めていけたら幸甚です。
次回は、航空セキュリティの要である保安検査と従事する保安検査員についてご報告します。
(了)
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方