ハリケーン・カトリーナ被災後のオーリンズ郡 南部、17番運河を遠景に望む (出典:Wikipedia)

ベルギーにある災害疫学研究センター(The Center for Research on the Epidemiology of Disasters:略称 CRED)と国連国際防災戦略事務局(UNISDR)とが共同で、2015 年に「The human cost of weather-related disasters 1995-2015」という報告書を発表している。

CRED は全世界で 1900 年以降に発生した 2 万件以上の災害に関するデータを、「EM-DAT」というデータベースに収録しており、データは Web サイト(http://www.emdat.be/)で一般に利用できるようになっている。なお EM-DAT では自然災害を「地球物理学的災害(地震、火山噴火など)」、「水理学的災害(洪水、地すべりなど)」、「気象災害(嵐、極端な温度、霧など)」、「気候学的災害(干ばつ、山火事など)」、「生物学的災害(感染症、害虫など)」、「地球外からの災害(隕石、宇宙天気など)」の 6 種類に分類しているが、本報告書が対象としている「気象関連の災害」とは、これらのうち水理学的災害、気象災害、気候学的災害の 3 種類の総称である(注)。

このデータによると、1995~2015 年の 20 年間に発生した災害のうち 9 割を気象関連災害が占めており、6457 件の気象関連災害で 60万6000 人もの命が犠牲になっているほか、41 億人が負傷したり、住居を失ったりするなど、何らかの形で緊急援助が必要な状況に陥っているという。このような現状認識を踏まえて本報告書は、報告書が発表された年の 12 月に開催された COP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で採択された、パリ協定の重要性を強調するものとなっている。

図 1 はこの 20 年間に発生した自然災害の内訳、図 2 は気象関連災害で影響を受けた人数(死者数を除く)の内訳であり、いずれも洪水が大きな割合を占めているのがわかる。洪水対策についてはダムや堤防、早期警戒システムなどといった既存の技術で対策できる余地が大きく、対策の効果が見込みやすいのではないかと本報告書では期待されている。また、特に開発途上国では洪水被害による食糧難が発生することから、開発問題のみならず人道的観点からも重要な課題であると指摘されている。

図1 この 20 年間に発生した自然災害の内訳 (出典:「The human cost of weather-related disasters 1995-2015」)
図2 気象関連災害で影響を受けた人数(死者数を除く)の内訳 (出典:「The human cost of weather-related disasters 1995-2015」)

一方で死者数を見ると、嵐(ハリケーンやサイクロンなどを含む)による死者が最も多いことが分かる(図3)。なお嵐の 21% が南アジアおよび東南アジアで発生しており、これらの地域での死者が 8 割以上を占めている。本報告書では、多くの命を救うためには、特にリスクの高い貧困農村地域において、より効果的な早期警戒システムの整備や、シェルターや強風に耐えられる建物などの対策が必要であると指摘している。

図3 災害の種類別の死者数 (出典:「The human cost of weather-related disasters 1995-2015」)

なお、本報告書では、気象関連災害によって影響を受けた人の国別の絶対数と、それを各国の人口で割った数字(100 万人あたり)でそれぞれ上位 10 ヶ国が掲載されている。絶対数が多いのは主にアジア諸国である(多い順に、中国、バングラデシュ、フィリピン、インド、タイなど)が、人口で割るとアフリカの国々が上位に入る(多い順にエリトリア、モンゴル、レソト、ジンバブエ、ソマリアなど)。

以上の他にも、気象関連災害と国民所得との関係や、災害による経済的損失など、様々なデータがシンプルなグラフを中心にまとめられているので、報告書本文をご参照いただきたい。

■報告書本文の入手先(PDF 30 ページ/838 KB)
http://www.unisdr.org/we/inform/publications/46796

(注)本稿では、自然災害の 6 分類で使われている「Meteological」も、「気象関連災害」という呼称で使われている「weather」も、ともに「気象」と訳しているため、関係が若干分かりにくくなるかも知れないがご了承いただきたい。

(了)