「大きな災害の直後にのみ防災意識は高まるが、それを持続させるのは難しい。阪神・淡路大震災でも東日本大震災でもそうだった。ならばいっそ、平常時と災害時という2つのフェーズの区切りをやめ、『フェーズフリー』という新しい概念で、普段の生活がそのまま防災になっているようなモノやサービスが作れないかと考えた」と話すのは、スペラディウス代表取締役の佐藤唯行氏。

佐藤氏は学生時代、大学で災害軽減(防災)工学を研究するなかで奥尻島地震(1993年)、阪神・淡路大震災(1995年)に直面。現地に入って自分の無力さと同時に、防災を行政やボランティア活動によって実現しようとする現状への限界も痛感し、「防災はビジネスによって実現されるべきなのでは」との思いが芽生えたという。

修士課程修了後は大手ゼネコンでビジネスを学んだ後、災害に対し前向きに取り組める社会を目指すNPO 法人シュアティ・マネジメント協会を2008年に設立するなど本格的な活動を開始。2013年に「事業として防災に取り組む」ことを目的にスペラディウスを起業した。

同社のビジネスの柱の1つはコミュニティエネルギー事業。2012年から始まった政府の再生可能エネルギーの固定価格買取制度を利用し、太陽光発電事業を活用することで地域活性及び地域の防災・環境改善等の事業に取り組む。

「発電事業で得る安定した収入は、地域の人々から電力会社が受け取る電気料金に依存している。地域の人々のおさいふから、大資本を元々持っている企業へとさらなる利益が流れ込む、いわばゆがんだ仕組み。そこに違和感があった。だからこそ発電の利益で、コミュニティに貢献できるビジネスを創りたいと考えた」。現在では徳島県鳴門市をはじめ全国8カ所で発電事業を実施するに至っている。

そして佐藤氏が現在、同社の第2の柱として育てているのが「フェーズフリー」の概念だ。

佐藤氏は「平常時や災害時というフェーズに関係なく、普段使用している商品やサービスが変わらずに使えたり、また災害時には普段とは違う方法で役立ったり、生活や命を守れること。それがフェーズフリーという価値。フェーズフリーがいわゆる『防災』と異なる点は、あらゆるモノやサービスに関わる企業や個人が全員主役であること。

これまで防災について考える役目は防災の専門家が多くを担ってきたが、フェーズフリーではモノやサービスを提案・提供する全ての人が、それぞれの専門性の中でフェーズフリーという付加価値を加え、新たにデザインし、改善して提供することで、災害時でも安心して豊かな暮らしが出来る社会へと近づく。それを可能にするための、全ての人が参加できる自由なプラットフォームを作るのがスペラディウスの使命」と、未来への目標を語った。

(了)