2011年3月11日、東日本大震災に伴う大津波で、宮城県石巻市立大川小学校に在学する児童74名(うち2名は当日は学校を欠席・早退)、教員10名が犠牲となった。校庭から「三角地帯」へ向かった児童76名と教員11名のうち、児童4名と教員1名を除き全員が亡くなった。
小学校という場で教員と一緒だった子供たちが、そして子供たちを救おうとした教員たちが犠牲になった痛ましい災害だ。胸が締め付けられ、表現することばなど見つかるはずがない。亡くなった児童のうち23名のご遺族が学校側の責任を明らかにし、組織の安全体制確立の教訓にすることを目指して損害賠償請求訴訟を提起した。
2016年10月26日に仙台地方裁判所で第一審判決があり、当事者双方が控訴、2018年4月26日に仙台高等裁判所で第二審(控訴審)判決があった。本稿は、一連の判決の指摘を前提に、組織の危機管理対策、ことに事業継続計画(BCP)に反映できるポイントを探る観点から自戒をこめて考察を加えるものである。
大川小学校津波訴訟・控訴審判決
控訴審は、第一審同様に学校側の過失を認定し、宮城県と石巻市に国家賠償法に基づく損害賠償責任を認める判決を言い渡した。裁判の全過程を通じて注目されたのは、①学校側が平時において事前に児童の生命・身体の安全を保護すべき義務を懈怠したといえるか(学校組織上の注意義務違反にかかる責任原因)、②学校側が地震発生後の津波来襲により児童の生命・身体が損なわれる具体的危険を予見し、これを前提として児童を高所へ避難誘導すべき結果回避義務を懈怠したといえるか(本件津波からの避難誘導義務違反にかかる責任原因)という2つの争点である(なお事後的違法行為にかかる責任原因についても3点目の大きな争点であるが、本稿では触れない)。
第一審では、①の学校組織上の注意義務違反はないとしたうえ、②の避難誘導に関する注意義務違反を認定した。これに対し、控訴審では、①の学校組織上の注意義務違反、すなわち学校保健安全法に基づく市教育委員会や校長らの作為義務であった「安全確保義務」の履行を懈怠したことを根拠にしたことが大きな特徴である。
組織のリスク・マネジメントに生かすべきポイント
控訴審は学校保健安全法に基づく学校長等の「安全確保義務」を定義することで、危機管理マニュアル改訂やそれに伴う訓練の実施等の措置をおこなうべき職務上の具体的義務の存在を導いている。したがって、学校教育施設以外に直ちに控訴審判決の示す責任論が妥当するかどうかには慎重な検討が必要である。
もっとも、一連の判決を、組織が従業者や顧客の命を救うための教訓として生かすという視点から考えると、次の点を考慮する必要がある。かかる視点から「事業継続計画」(BCP)や危機管理マニュアルを見直し、それらを活用した避難訓練や人材育成の指標とできるのではないだろうか。
組織の危機管理体制の見直しのポイント
【1】災害後の情報収集体制の確立とそのための最低限の設備があるか
【2】収集した情報に基づく円滑・的確な判断と立場に応じた行動ができるか
【3】現場の判断権者の不在を回避するための自動的な権限委譲ルールがあるか
【4】これらが危機管理マニュアルに記述され、周知され、避難訓練で参照されているか
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