2018/04/18
防災・危機管理ニュース
今井勝典さんの死を悼む
公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会警備局長の今井勝典さんが4月16日、体調不良により52歳の若さで永眠いたしました。
2015年4月に、警察庁から組織委員会に出向。テロや首都直下地震など、さまざまな脅威が取りざたされるオリンピックの危機管理体制の構築に尽力されました。警察だけでなく、民間警備、民間企業、さらには市民一人ひとりを巻き込んだ「オールジャパン体制の危機管理」は彼が常に言い続けてきた言葉です。2015年9月の危機管理カンファレンスでは基調講演をいただき、その後、何度も私どもの取材に応じていただきました。
あと2年に迫った東京2020大会に向け、私たちがすべきことは何か。今井勝典さんからいただいた寄稿を抜粋して紹介いたします。

1点目は、「リスクベースの警備体制構築」ということです。「リスクベース」は、「リソースベース」の対語です。どのぐらいお金を使うかという判断が先にあるのが「リソースベース」です。
オリンピックは世界中のテロリストなどの標的です。予算のことを無視するわけではありませんが、「リスク度」を評価し、それに見合った警備体制は何か、ということをベースに警備体制を構築すべきだ、ということです。言い換えれば、「必要ないことはやらないが必要なことはやる」ということです。
当たり前のことを言っているだけのようですが、東京2020大会という巨大イベントを前に、その前提となるリスクを多面的に評価する作業というのは、容易なことではありません。過去の大会で現実に起こったものだけでなく、それ以外にもさまざまなイマジネーションが必要です。既に述べたとおり、過去の大会では、いずれも、数々のリスクをシミュレーションして準備していました。
2点目は、民間警備員体制の計画的構築ということです。リオデジャネイロでも、4年前のロンドンでも、予定数の警備員を結果的に集められず、土壇場になって慌てる一幕がありました。東京大会で同じ失敗を繰り返すわけにいきません。
競技の追加もあり、1万4000人という推計が大きく下方修正されるとは思えません。早め早めに動いていくことでこの課題を解決し、日本の民間警備業界全体が大きな経験値を得る、つまりレガシーを獲得する、という結果に終わらなければなりません。
求められるオールジャパン体制
東京2020大会という巨大行事のセキュリティは、運営に当たる組織委員会の力だけでなし得るものではありません。「オールジャパンの精神」で、「オールジャパンの体制」で、ということをいつも申しております。
国、東京都、組織委員会の強固なつながり、そしてスポンサー企業をはじめとする産業界の力、それに加えて、地域社会や国民一人ひとりの力が必要になります。競技と都民生活との共存の問題は、特に自転車やマラソンなどのロード競技などでは大きなものとなると思います。
また、大会施設建設に際してのセキュリティ要件の問題、医療体制の問題、サイバーセキュリティ向上のための関係機関間での協力体制強化など、今後さまざまな課題をクリアしていかなければなりません。
東京2020組織委員会は、オリンピック・パラリンピックの熱気と感動を守るために全力を尽くします。この場を借りて、改めて関係各方面の皆様のお力添えのほどをお願い申し上げたいと思います。
(リスク対策.com 2016年11月号 今井勝典氏の特別寄稿より)
謹んでご冥福をお祈りいたします。
リスク対策.com 中澤幸介 スタッフ一同
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