「消防職員の不祥事予防研修」で講演するサニー・カミヤ氏(画像提供:岐阜県中濃消防組合)

一昨年から、元消防職員による、消防事情をわかった上での「消防職員の不祥事予防研修」を、千葉市消防局を始め全国各地で行っている。ご依頼の中で一番力を入れて欲しいというご希望が多いのは「消防職員のパワハラ研修」である。

■一瞬で「全て」を失う不祥事を起こさないために…千葉市消防局不祥事防止研修を実施しました(千葉市)
https://www.city.chiba.jp/shobo/somu/jinji/husyouji.html

■パワハラ等研修評価書:消防職員不祥事予防対策研修
http://irescue.jp/PDF/Result_Q&A.pdf

よく「なぜ、パワハラが行われるのか?」「どのような人がパワハラを起こしやすいか?」などとご質問を戴く。ひとつの要因として、小隊長以上の指導者研修というカリキュラムが、署所など組織内や消防学校などで具体的に行われていない消防局が多いことがわかる。

また、パワハラが起こる要因として、エモーショナルコントロール(感情調整)ができない上司がパワハラを起こしやすいことがわかっている。

特に下記の人格特性を持つ上司にパワハラの可能性があると言われている。

・情性欠如(思いやり、慈母心、同情心、憐れみ、羞恥心が欠けていること)
・爆発性  (攻撃的な心理状態になりやすいこと)
・抑制欠如(怒りや憎しみなど感情を抑える理性が欠けていること)


パワハラの処分を受けてしまった上司の多くは、部下の業務指導を具体的な部分の改善アドバイスではなく、「何で何度言ってもできないんだ?」と感情的になり、いつのまにか、「だからおまえはダメなんだ」と小言で指導しようとして、部下の人間性の否定にまで及んでしまい、最後には「お前はもう消防辞めろ!」とまで言い放ってしまう。本来、やる気を出させて業務改善をするべきなのに、やる気を無くさせる結果に陥ってしまったことが見受けられる。

さらに、個別の業務改善指導のはずが、エスカレートして周囲に大勢の職員が居るなかで叱責が大声で行われ、結果的にパワハラを行っただけに終わってしまうケースも多い。

消防組織で問題なのが、パワハラ的な感情的指導が行われている間、周囲の職員が黙って、その成り行きを見守っていること。早めに途中で仲裁すれば、上司は処分されずに済み、部下は精神的ダメージを受けずに済んだのにというケースがほとんどだという。

総務省消防庁でも2016年度に下記の検討会を行っているが、パワハラ、セクハラ、マタハラを行っている職員は40代以上に多いことがわかる。

■消防本部におけるハラスメント等への対応策に関するワーキンググループ(総務省消防庁)
http://www.fdma.go.jp/neuter/about/shingi_kento/h28/harassment/

パワハラには暴力、暴言など心身への攻撃のほか、職場関係者からの切り離し、過大・過小な要求や個の侵害がある。いずれにしても組織マネージメント的に問題となるのは、パワハラの延長線上で、部下がメンタル的ダメージを受け、長期間休職したり、最悪のケースは自殺したりしてしまうこと。そして、パワハラを行った上司も懲戒免職になり、一度に2名の消防職員が組織から離れてしまうことである。

異動時期以外に、2名の職員の補充や応援派遣などの調整はかなり困難であり、何よりも他の職員にも業務のしわ寄せが及んでしまう。

できるだけ早く「パワハラをしない、させない、見逃さない」ために下記の資料を用いて、パワハラを洗い出すことをアドバイスさせて戴いている。

■パワーハラスメントに関するアンケート調査
http://irescue.jp/docs/questionnaire_survey_on_power_harassment.docx

パワーハラスメントに関するアンケート調査については、1〜2回行っても、言いにくいとか、人事評価の対象になってしまうのではと思う職員もいるため、定期的に繰り返すことで、隠れていたパワハラが浮上してくることが多いようだ。

また、下記のパワーハラスメント相談票やパワハラ行為者聞き取り表を用いた傾聴研修や、パワハラによる処分に至る前にストレスや要因の洗い出しを行い、具体的に改善指導を行うことで、エスカレートする前に予防することも重要だ。

■パワーハラスメント相談票(裏表)
http://irescue.jp/XLSX/power_harassment_consultation.xls

■パワハラ行為者聞き取り表
http://irescue.jp/XLSX/healing_sheet.xlsx

パワハラなどの不祥事を行うと、こういう処分を受けるという簡単な処分事例と指針を消防職員全員に配付して、消防士の時から組織モラルとして、パワハラをさせないための指導を行うことが大切である。

■よくある消防職員の不正・不祥事処分事例
http://irescue.jp/PDF/Shobo_shobun_Jirei.pdf

■懲戒処分の指針について
http://irescue.jp/PDF/choukai_shishin.pdf

(画像提供:岐阜県中濃消防組合)

恐いのは、消防職員のパワハラ事件はメディアのネタになりやすく、行政上の処分に止まらず、パワハラを起こした職員や上司、所属消防本部も実名で報道され、SNSなどで拡散されてしまい、退職した後も何十年にも渡ってオンライン上に不祥事の足跡として「デジタルタトゥー(デジタル的な入れ墨)」となって、残り続けることだ。

場合によっては、パワハラ事件を起こしたその日から転落の人生が始まり、メディア報道による風評被害で、家族や同僚、友人達など、全ての信用を失てしまい、その土地にいられなくなったり、再就職もかなり難しくなってしまうこと。

自分の子供が将来「お父さんのような立派な消防士になる」と夢見ていたとしたら、その期待と信頼を失ってしまうことにもなる。

すべての不祥事は1から始まり、10に終わることが多い。懲戒処分は、パワハラで懲戒免職になった当事者職員だけで無く、その上司や所属長など、縦のラインすべてが処分の対象になってしまうからだ。

簡単なアンケートとして、下記の内容を職員に配布してみてもいいかもしれない。

今の職場や組織に対して、または、職場の人間関係等で精神的、心理的にストレスになったり、気になっていることはありますか?

1、それは、具体的にどんなことですか?

2、どうしたら、改善できると思いますか?

3、誰がいつ改善案を実行するべきですか?


とにかく大事に至る前に、具体的に、そして早くパワハラの発火点・着火点・延焼範囲などの現場情報を把握することが重要である。

以前、不祥事発生には4%ルールというものがあり、職員の4%は常に不祥事を起こす可能性があると聞いたことがある。

消防職員は、所属する組織の一員であると同時に日本の消防職員の一員であり、また、世界の消防職員の一員である。そして世界中の消防職員は、同じ時代に消防士として国民の生命・身体・財産を守る同志であり、部下や同僚も家族であるという縁と絆を強く持つことで、パワハラなどの不祥事を無くすことはできないかと心から思う。

以下、参考HP:
■職場のパワーハラスメントについて(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000126546.html

■これってパワハラ? 動画でチェック!
https://www.no-pawahara.mhlw.go.jp/movie/#case

(了)


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http://irescue.jp
info@irescue.jp