BSIが考える組織のレジリエンスのモデル(出典:BSI, Organizational Resilience: Harnessing experience, embracing opportunity - Executive summary)

英国規格協会(BSI)は近年、組織のレジリエンスに関する事業に積極的に取り組んでおり、2014年に世界で初めて、組織のレジリエンスに関するガイダンスとしての英国規格 BS65000を発行したのをはじめとして、組織のレジリエンスに関する様々なレポートなどを通じて普及啓発に取り組んでいる。そのBSIが組織のレジリエンスに関するベンチマーク指標「Organizational Resilience Index」を開発し、2017年9月にはその指標を用いて行った調査の結果を「BSI Organizational Resilience Index Report 2017」(以下「本報告書」と略記)として発表した。

BSIではベンチマーク指標を開発するにあたり、組織のレジリエンスに影響を与える16の要素を導き出したという。これらを「リーダーシップ」、「人々」、「プロセス」、「製品」の4つのカテゴリーに整理し、これらに関する質問票を作成して、英国およびアイルランド、米国、オーストラリア、日本、中国、インドにおいて、組織における上級管理職1263人を対象としてアンケート調査を行った。

図1は前述の16の要素に関して、それらが自分の組織において、どのくらい良好な状態だと認識しているか(パフォーマンス)と、どのくらい重要だと認識しているかを尋ねた結果である。ランキングの数字は、図1の上の方に表示されているとおり、4つのカテゴリーに色分けされている。図2はこれらの関係を図に整理したものである。

なお、これらの要素の中で、「調整・整合」に関しては日本語訳だけだと意味が伝わりにくいと思われるが、英語では「alignment」と記述されており、本報告書の中では「品質、安全衛生、情報セキュリティなどの領域を含む、組織における全ての側面が、組織の戦略を実現するためにどの程度揃っているか」と説明されている(注1)。

図1 組織のレジリエンスに影響を与える16の要素のパフォーマンスおよび重要性 (出典:BSI, Organizational Resilience Index Report 2017)
図2 組織のレジリエンスに影響を与える16の要素の評価結果の全体像 (出典:BSI, Organizational Resilience Index Report 2017)

「重要性のランク」を見て筆者が驚いたのは、「事業継続」のランクが意外に低かったことである。より上位にランキングされている要素を見ると、回答者の多くはレジリエンスについて、災害や事故などといった短期的な外乱から立ち直る能力というよりは、経営環境の変化など中長期的な変化も含めた、より広い範囲の変化に適応していく能力と捉えているように思われる。

また、「レピュテーションに関するリスク」(reputational risk)が最重要とされているところに注目すべきであろう。筆者が見聞きしている範囲においても、欧州のBCM関係者の間で、ここ数年の間にレピュテーションに対する注目度が高まってきているので(注4)、ここで上位に現れることには特に驚きはない。

しかしながら、国・地域ごとの集計結果を見ると、日本においては「事業継続」が1位で、「レピュテーションに関するリスク」が3位となっている(図3)。
 

図3 日本の組織における回答結果のトップ5(出典:BSI, Organizational Resilience Index Report 2017)

このような国・地域ごとの集計結果は、日本の他はオーストラリア、中国、インド、英国およびアイルランド、米国の5つに分けて示されているが、これらの中で「レピュテーションに関するリスク」が重要性のランクで1位になっていないのは日本だけである。また重要性のランクの上位5位以内に「事業継続」が入っているのは、日本とアメリカだけである。

このような結果を見ると、「組織のレジリエンス」の概念が、国や地域によってかなり異なるのではないかと推測される。調査対象の中で日本と中国以外はおおむね英語圏であるから、母国語の語彙の中に「resilience」という言葉があるかどうか、という違いもあるのかもしれない(注5)。

また本項では記述を省略するが、業種別の集計も大変興味深い。まるで「組織のレジリエンスとは何か?」という概念的な問いに対して、様々な観点が示されているようなレポートとなっているので、是非ご一読をお勧めしたい。


■ 報告書本文の入手先(PDF20ページ/約3.6MB)
https://www.bsigroup.com/en-GB/our-services/Organizational-Resilience/Organizational-Resilience-Index/


注1)原文は次の通り:The extent to which all aspects of the organization, including disciplines such as quality, health and safety and information security, are aligned to realizing its strategy.

注2)Horizon Scanとは、中長期的に将来起こりえる変化や事象を、系統的な調査によって探し出そうとする手法である。BCM の専門家や実務者による非営利団体である BCI(注3)では、2011年から、主にBCI会員を対象として「Horizon Scan Survey」というアンケート調査を毎年実施しており、その結果を報告書として公開している。2017年版の報告書は本連載でも紹介させていただいた。 http://www.risktaisaku.com/articles/-/2435

注3)BCIとはThe Business Continuity Instituteの略で、BCMの普及啓発を推進している国際的な非営利団体。1994年に設立され、イギリスを本拠地として、世界100カ国以上に8000名以上の会員を擁する。http://www.thebci.org/

注4)筆者の主観だが、BCIが主催するカンファレンスでレピュテーションに関する内容のセッションが増えたり、BCIが発行する機関誌や各種報告書などで、レピュテーションに関する記述が増えてきているように思う。

注5)中国語にそのような語彙があるかどうかは筆者も知らないので、どなたかご教示いただければ幸いである。

(了)