(画像:https://www.pexels.com

2017年9月3日(日)午後、朝鮮労働党の機関紙・労働新聞のニュースは「核兵器の威力を攻撃対象によって数十〜数百キロトン級に至るまで任意に調整できる我々の水素爆弾は巨大な殺傷破壊力を発揮するだけでなく、戦略的目的によって高空で爆発させ、広範囲の地域について強力なEMP(電磁パルス=ElectroMagnetic Pulse)攻撃まで加えることのできる多機能化された熱核弾頭を備えている」と報じている。

今回は、次の2つの米国の発表内容をもとに、EMP攻撃への企業や自治体の対応について記事を書いてみた。

■「U.S. Department of Energy Electromagnetic Pulse Resilience Action Plan」(米国エネルギー省 EMPレジリエンス・アクション・プラン)
https://energy.gov/sites/prod/files/2017/01/f34/DOE%20EMP%20Resilience%20Action%20Plan%20January%202017.pdf

■「Report of the Commission to Assess the Threat to the United States from Electromagnetic Pulse (EMP) Attack」(EMP攻撃による米国への脅威を評価する委員会報告)(Dr.John S.Foster,Jr./Mr.Earl Gjelde /Dr. William R. Graham (Chairman)/Dr. Robert J. Hermann/Mr. Henry (Hank) M. Kluepfel/GEN Richard L. Lawson, USAF (Ret.)/Dr. Gordon K. Soper/Dr. Lowell L. Wood, Jr./Dr. Joan B. Woodard)
https://web.archive.org/web/20070610090718/http://www.missilethreat.com/repository/doclib/20040000-EMPcomm-empthreat.pdf

(画像:https://www.pexels.com

EMP攻撃とは

高高度(30キロメートル~400キロメートル)での核爆発によって生ずる強力な電磁波(電磁パルス)とガンマ線放射の影響を利用して、送電線網、コンピュータ、低軌道上の人工衛星を含む通信インフラなどを無差別に破壊する攻撃。地上の電気・ 電子システムなど、多くの各種電子機器に誤作動を発生させる。場所と場合によっては、航空管制、原子力施設、化学コンビナート、道路や鉄道などの信号機、自動車の電子制御点火装置、エレベーター内への閉じ込めなど、本来、大地震時の停電に機能する非常電源装置にまで影響を及ぼすため、大規模な2次災害を発生する可能性が高いことが予想されている。

主な物理的攻撃目標
●原子力発電所や火力発電所
●基幹送電設備や装置、送電線
●変電所、配電所、中継設備など
●レーダーや無線装置、送受信施設
●中央給電指令所(電力本社)


また、EMP攻撃時の核爆発で発生するエネルギーは光速で伝わり、上空の爆発地点から四方八方に放射され、広範囲のエリアにほぼ同時に到達し、落雷の何千倍もの速度で広がるため、ほとんどの種類の避雷装置やサージプロテクターなどは基本的には、ほぼ役に立たないと思われる。

(画像:https://www.pexels.com

EMP攻撃時に住民生活を守る方法

従来、EMP攻撃は人や生命体、建物の損壊を起こさないクリーンな攻撃と言われてきたが、現在、北朝鮮が開発保有する水素爆弾は広島型原子爆弾の数十倍~数百倍と言われおり、ICBMの水素爆弾の威力は数十キロトン級から数百キロトン級にまで調整できると北朝鮮は発表している。

もし、東京上空200kmで10キロトンの核爆発(長崎型原爆は約22キロトン)が発生したとすると被害地域は半径約2000km。最大限の被災環境を考えると、沖縄などを除く日本列島ほぼ全域のインフラが一瞬にしてストップし、復旧が長引けば死傷者は数百万人に達すると予想されている。

現時点では、ミサイルの発射をJアラートに頼るしか無く、弾道ミサイル発射情報を覚知した時点で、可能な限り、物理的な部分自動、またはアナログ的手動で対応する必要がある。

また、住民はJアラートを覚知できる状態にしておくと共に、Jアラート発報時には、本気で下記のような避難行動をとることで、個人のできる範囲だが救命率が高くなると考える。

1、コンセントなど、電気配線や電気機器から離れるため、落ちついて室内の中央部に移動し、蛍光灯や電球、電機機器の破裂などから、頭(目、鼻、口、首)を守る。

2、パソコンなど、雷以上の過剰電流が予想されるため、守りたい電子機器のケーブルをコンセントから抜いておき、金属類からできるだけ離れて感電に注意する。ペースメーカーを入れている方にも誤作動の可能性を促す。

3、外に居る場合は、電線の落下、変圧器や電線ケーブルの火災、信号機の故障による交通事故、主要駅における群衆パニック、地下鉄などの急停止などを予測し、安全な場所を選択し、落ち着いた対応をとる。

4、高層ビル内ではエレベーターが使えなくなり、非常電源装置も故障する恐れがあるため、できるだけ、フロアの中央部に退避し、インターネットやテレビを長期間使えない状態で継続的に情報収集をする手段(室内は特定省電力無線機、事業所間は広域無線通信機等)を考えておく。

5、電池や燃料で作動する照明機器やラジオ、無線機などを準備しておく。

6、自転車やバイクなど、できるだけ燃料の入らない移動手段を確保しておく。

7、ガスコンロやオイルコンロなど、電気を使わない調理器具や調理する必要の無い食材を備蓄しておく。

8、各自治体で発行されている停電時の対処法や災害発生時の基本行動を読み、電気が長期間、使えなくなったときのことを考えて、各自が対策を計画し、実行できる状態にしておく。


悩ましいのはEMP攻撃テロによる核爆発後は、長期間、携帯電話が使えなくなるばかりか、消防、防災、警察等の指令センター、テレビ、ラジオ、インターネットにも一定期間、接続できない状況に陥る可能性が高い。これらのインフラが無かった時代の、人による伝令や非常電源装置で号外などを印刷して配布するなど、アナログ的思考での行政対応を考える必要がある。

特に火災が発生した場合、避難指示や延焼による危険通知を人的に行うので遅延が生じる可能性が高くなる。通常よりも早めに避難誘導活動を開始する必要がある。

さらに要配慮者が近くに住んでいる場合は、できるだけ早めに声がけし、安全に避難できるような地域共助の仕組みが重要となる。

ニューヨーク市における被災影響試算例

ニューヨーク市の例では、送電網が停止した際、いくつかの火力発電所がフル稼働で対応できると仮定した場合、広範囲な地域の送電網系統が物理的に破壊されたとしても現実的に見て都市の40~50%の電力が足りなくなる程度だと予想されているが、首都圏エリアの被災経済損失額は3日程度で約2兆円規模と予測されている。

直接的損失要員項目と経済損失予測額としては下記の通り:

収益の機会損失 :6600億円

冷蔵材の腐敗 :1650億円

EMP攻撃テロ被害復旧費 :350億円

電力事業者の復旧費 :2000億円

政府の特別対策費 :400億円


アメリカ政府が出している、EMP攻撃テロ時に地方自治体が行える事前対応の検討事項項目例は下記の通りだ。災害リスク対応の優先順位として「生命」「身体」「財産」の順で守る事が記されている。

電磁波パルス(EMP)の脅威に対する準備検討事項

1) 非常事態宣言発令文言の内容確認

2) 非常事態宣言発令手法や装置の動作確認

3) EMP攻撃テロの事実確認方法(固定電話等、使える可能性のあるもののリストアップ)

4) EMP攻撃時における住民生活安全確保の指針発表内容

5) 情報収集困難、徒歩による帰宅、飲水、備水、災害食確保、トイレ、入浴が困難になることなど住民への災害予測と災害対応教育の具体的実施

6)市内の被災状況報告などネット不通時にマニュアルで随時情報収集する仕組み確立

7)治安維持の警告(条件に応じてラジオや無線による非常公共放送等を用いる)

8)停電による2次災害の影響等状況予測と被災影響試算の算出

9)一般家庭への節電要請と第3次医療機関、消防・警察・自衛隊・海上保安庁など災害対応機関における電力確保

10)都市機能復旧見通し報告段階発表準備

11)国、県、市代表の紙媒体などによる声明発表

12)地域、季節、時間帯を予測した住民行動アドバイス

13)原子力施設等における周囲住民への影響発表

14)都市機能復旧と地下鉄等公共交通機関再開情報

15)被災調査報告と復興計画発表


参考文献:THE EMP THREAT: THE STATE OF PREPAREDNESS AGAINST THE THREAT OF AN ELECTRO- MAGNETIC PULSE (EMP) EVENT
https://oversight.house.gov/wp-content/uploads/2016/04/5-13-15-The-EMP-Threat.-The-State-of-Preparedness-Against-the-Threat-of-an-Electromagnetic-Pulse-EMP-Event.pdf

特に都市機能麻痺による生命の安全確保するため、電気で作動する様々な医療機器、生命維持装置、透析器、福祉施設における介護機器などの物理的な電気回線を非常電源装置に切り替える具体的な訓練や、非常電源装置の使用電力量による燃料消費時間の算出、ガソリンやディーゼルなど、非常電源装置を継続運転するための燃料備蓄量の算出と備蓄場所の安全確保が必要だ。

また、行政サービスの継続に必要な住民情報・通信機器を、コンセントやネット回線に繋がれていないパソコンにすべてのデータバックアップ体制を行っておくことで、重要データを失う事態を回避することや、基礎自治体は住民台帳などの紙媒体で行政対応するための準備や仕組み作りなどが重要となってくる。

EMP攻撃を受ける前の事前対策と、受けた後の初動機対応等から、復興までを各地方自治体で専門家を集めてワークショップをしてみるとさらに具体的な対策案やマニュアルができると考える。

EMP攻撃についての文献は、1961年から日本語で発表されているが、現時点では下記の資料が最も新しく、自治体における対応についての参考文献として有力だと思われる。

■第4の戦場かそれともグローバル・コモンズか ―米中の宇宙空間の軍事化防止策を中心にー(大阪大学国際公共政策研究科教授/竹内 俊隆)
http://www.law.osaka-u.ac.jp/c-forum/box2/dp2017-1takeuchi.pdf

■核兵器攻撃被害想定専門部会報告書
(広島市国民保護協議会 核兵器攻撃被害想定専門部会部会長/葉佐井  博巳)
http://www.city.hiroshima.lg.jp/www/contents/1141957716995/files/houkokusyo.pdf

■ブラックアウト事態に至る電磁パルス(EMP)脅威の諸相とその展望
(防衛省防衛研究所政策研究部防衛政策研究室主任研究官/一政 祐行)
http://www.nids.mod.go.jp/publication/kiyo/pdf/bulletin_j18_2_1.pdf

■北朝鮮のミサイル問題と我が対抗戦略
(中央学院大学社会システム硏究所客員敎授、韓國航空宇宙法学会名誉会長、中国北京理工大學(BIT)法学院兼任教授、印度Gujarat国立法科大学校名誉敎授/金 斗煥)
https://www.cgu.ac.jp/Portals/0/data0/social-system/publication/pdf/11_2/11_2_1.pdf

(了)