排水ポンプ車・大量投入、仙台空港のいち早い脱出劇
津波の中から奇跡の早期再生

高崎 哲郎
1948年、栃木県生まれ、NHK政治記者などを経て帝京大学教授(マスコミ論、時事英語)となる。この間、自然災害(水害・土石流・津波など)のノンフィクションや人物評伝等を刊行、著作数は30冊にのぼる。うち3冊が英訳された。東工大、東北大などの非常勤講師を務め、明治期以降の優れた土木技師の人生哲学を講義し、各地で講演を行う。現在は著述に専念。
2017/06/05
安心、それが最大の敵だ
高崎 哲郎
1948年、栃木県生まれ、NHK政治記者などを経て帝京大学教授(マスコミ論、時事英語)となる。この間、自然災害(水害・土石流・津波など)のノンフィクションや人物評伝等を刊行、著作数は30冊にのぼる。うち3冊が英訳された。東工大、東北大などの非常勤講師を務め、明治期以降の優れた土木技師の人生哲学を講義し、各地で講演を行う。現在は著述に専念。
6年前に東日本を襲った大震災と津波による死者・行方不明者は2万人近くにのぼる。岩手県・宮城県・福島県の大津波による被害は甚大であった。発生後、現地取材を続けるにつれて、東日本大震災がもたらした大打撃は、激震よりも大津波による被害がはるかに大きかったことを痛感した。仙台平野では海岸線から5km以上の内陸まで津波が繰り返し押し寄せた。宮城・岩手両県の内湾部では、既往の最大外力を計画高とした高さ10m以上の防波堤・防潮堤をはるかに上回る津波が襲来し、沿岸部の港や市町村を飲み込み壊滅的な被害をもたらし多数の<帰らぬ人たち>を生んだ。
大津波の襲来により、東北地方・太平洋の沿岸部では約469km2が浸水し、発生から2日後の3月13日時点で約170km2、約1億1200万m3の湛水が生じていた。沿岸部のほぼすべての地域が泥沼状態だった。広大な水田は海水の泥海となり再生不可とまで言われた。
国土交通省では東北地方整備局(地整)内に「本省・地整排水チーム」を設置し、全国から集結した排水ポンプ車を投入して広域緊急排水を実施した。164日間(3月16日~8月26日)にわたり、排水ポンプ車延べ約4000台/日!で約5600万m3を排水した。ほぼ半年間も排水作業が連日続いた。行方不明者の捜索活動支援のための緊急排水も増大した。前例のない試練の作業だった。
東北の空の玄関・仙台空港も大津波に繰り返し襲われ、大海の孤島のような孤立無援の状態となった。仙台空港鉄道も心臓部であるアクセストンネルが水没した。空港・鉄道ともに運行不可能となった。空港での緊急排水大作戦は国土交通省の総力をあげたオペレーションであり、その底力を見せつけるものであった。同省の排水ポンプを集中投入し25mプール1万4000杯分という気の遠くなるような排水を行い、米軍の「トモダチ作戦」を可能とし、4月13日の空港一部復旧の大きな助けとなった。
「仙台空港再生」の主な経緯から確認する。すでに知られている内容だが、あえて記しておく。
<東日本大震災の事例>(『災害初動期指揮心得』(国交省東北地整、2013年3月刊)より)は指摘する。
津波被災した仙台空港の緊急排水にあたっては、3月15日に宮城県より仙台東部低平地の排水対策要請があり、「本省・地整排水チーム」は排水計画に着手した。この計画において、緊急輸送(空港)の確保は最優先に位置付けられ、3月16日に宮城県と行なわれた現地調査において、最優先で仙台空港周辺の緊急排水を行なうことで合意した。これを受けて、本省チームによるヘリ調査とともに、国土地理院による被災後の空撮写真や土地改良区の水路網図など資料を入手、整備局職員、防災エキスパートによる現地調査を立案し、3月20日には排水ポンプ車の集中投入を実施し、延べ250台 /日の排水ポンプ車により3月29日までに計6345万m3(残り約1000万m3は自然排水)の排水を完了した。(驚くべき数字である)。
安心、それが最大の敵だの他の記事
おすすめ記事
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/15
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
新任担当者でもすぐに対応できる「アクション・カード」の作り方
4月は人事異動が多く、新たにBCPや防災を担当する人が増える時期である。いざというときの初動を、新任担当者であっても、少しでも早く、そして正確に進められるようにするために、有効なツールとして注目されているのが「アクション・カード」だ。アクション・カードは、災害や緊急事態が発生した際に「誰が・何を・どの順番で行うか」を一覧化した小さなカード形式のツールで、近年では医療機関や行政、企業など幅広い組織で採用されている。
2025/04/12
防災教育を劇的に変える5つのポイント教え方には法則がある!
緊急時に的確な判断と行動を可能にするため、不可欠なのが教育と研修だ。リスクマネジメントやBCMに関連する基本的な知識やスキル習得のために、一般的な授業形式からグループ討議、シミュレーション訓練など多種多様な方法が導入されている。しかし、本当に効果的な「学び」はどのように組み立てるべきなのか。教育工学を専門とする東北学院大学教授の稲垣忠氏に聞いた。
2025/04/10
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方