コミュニティのレジリエンスを我々はどのように捉えるべきか?
コミュニティのレジリエンスに関する系統的文献レビュー
合同会社 Office SRC/
代表
田代 邦幸
田代 邦幸
自動車メーカー、半導体製造装置メーカー勤務を経て、2005年より複数のコンサルティングファームにて、事業継続マネジメント(BCM)や災害対策などに関するコンサルティングに従事した後、独立して2020年に合同会社Office SRCを設立。引き続き同分野のコンサルティングに従事する傍ら、The Business Continuity Institute(BCI)日本支部事務局としての活動などを通して、BCMの普及啓発にも積極的に取り組んでいる。一般社団法人レジリエンス協会 組織レジリエンス研究会座長。BCI Approved Instructor。JQA 認定 ISO/IEC27001 審査員。著書『困難な時代でも企業を存続させる!! 「事業継続マネジメント」実践ガイド』(セルバ出版)
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本連載の 4 月 18 日掲載分の記事(注 1)では、様々な論文や書籍において「レジリエンス」という用語がどのように定義されているかを紹介させていただいたが、今回紹介する論文は、「コミュニティのレジリエンス」がどのように定義されているかを調査・分析したものである。
論文のタイトルは「What Do We Mean by ‘Community Resilience’? A Systematic Literature Review of How It Is Defined in the Literature」となっており、著者はロンドン大学キングス・カレッジの Sonny S. Patel 氏を中心とするグループである。
タイトルに「systematic literature review」(系統的文献レビュー)とあるように、本論文では一定のルールに基づいて、査読論文や灰色文献(注 2)を対象として文献の収集・分析を行っている。具体的には、まず「resilience」、「disaster」、「definition」の 3 つのキーワードを含む文献を、論文データベースである「MEDLINE」と「PsyINFO」、および Google 検索で収集し、重複を排除した上で、災害(自然災害だけでなくテロなども対象も含めた)に関する題材を扱った文献の中から、一定の条件に基づいてフィルタリングを行い、コミュニティのレジリエンスに関して言及された文献を抽出している(注 3)。
本論文では、データベースおよび Google 検索で 615 件の文献を発見し、フィルタリングの結果として分析対象を 80 件まで絞り込んでいる。ここでは掲載を省略するが、本論文にはこれらの文献においてコミュニティのレジリエンスが定義されている箇所が全て引用された表が掲載されている。膨大な文献の海の中から、コミュニティのレジリエンスの定義やコンセプトに関して言及された文献が抽出された結果が載っているというだけでも、本論文は大変貴重な存在であると言える。
ところで、本論文の背景には「コミュニティのレジリエンス」の定義が曖昧なままでは、そのレジリエンスを向上させるための政策や施策を進める上で、混乱が生じたり効率が悪くなったりするのではないか?という問題意識がある。これに対して本論文の結論としては、様々な定義の間には、次のように核となる 9 つの共通要素があることが分かったので、「コミュニティのレジリエンス」を明確に定義しようとするよりも、これらの 9 つの要素に注目して議論を進めることで、曖昧さを排除していけるのではないか、と提案されている。
1) その土地における知識(local knowledge)
2) 地域のネットワークと人間関係(community networks and relationships)
3) コミュニケーション(communication)
4) 健康(health)
5) 統治とリーダーシップ(governance and leadership)
6) 資源(resources)
7) 経済的投資(economic investment)
8) 準備(perparedness)
9) 精神的なものの見方、態度(mental outlook)
なお本論文では、今回の文献レビューにおける限界(limitations)の一つとして、レビューの対象が英語で書かれた文献に限定されているため、非英語圏でコミュニティのレジリエンスがどのように定義され、どのような概念が出来ているかは分からないという点が指摘されている。
この点に関しては、日本でも「レジリエンス」という外来語が定着しつつある状況を考えると、そもそも「resilience」に該当する訳語が各国に存在するのかどうかも疑問であるが、非常に興味深い研究テーマになり得る。例えば本論文と全く同じ方法で、日本語の文献に関して検索、フィルタリング、分析を行い、本論文の結果と突き合わせると、また新たな発見があるかも知れない。
■ 本論文の入手先(Web 上に掲載)
http://currents.plos.org/disasters/article/what-do-we-mean-by-community-resilience-a-systematic-literature-review-of-how-it-is-defined-in-the-literature/
注 1)「海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み! - 世界の研究者は「レジリエンス」をどのように捉えているのか」 http://www.risktaisaku.com/articles/-/2667 (2017/04/18 掲載)
注 2)「灰色文献」(gray literature)とは、非売品の図書や雑誌など、一般的な商業流通ルートでの入手が困難な文献の総称である。近年はインターネット上で入手できるものも増えている。なお本論文においては、灰色文献は数が非常に多いため、検索結果のトップから(重複リンクを除外して)上位 60 位までの文献が抽出されている。
注 3)例えば、「disaster」については UNISDR による「disaster」の定義に合わせたり、感染症など今回の分析の対象としないものを具体的に定めてフィルタリングしている。筆者による前述の記事が「あくまでも筆者がこれまでにアクセスした範囲内で」ある意味で場当たり的に書かれているのとは対照的である(筆者はしょせん「ナナメ読み」ですから!)。
(了)
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