東日本大震災時に学校に設置された避難所でアメリカ軍医の診察を受ける被災者(出典:Wikipedia)

さて、前回の連載では「災害救護1」として、災害時特有の救護活動について解説した。平時における一般的な救急救命処置方法との大きな違いを示しながら、気道確保・止血・ショック・クラッシュシンドロームに対する処置、現場でのサイズアップ、市民レベルによる簡易トリアージの手法などについて触れた。今回の連載では前回の続編として、現場での衛生管理、処置エリアの設定方法、要救助者の全身観察の手法と搬送方法について解説していく。

【衛生管理について】 

災害現場において注意しなければならないことの1つに衛生管理の問題がある。要救助者も救助者も衛生状態の悪化から感染症や疾病になる可能性を考え、市民救助隊(Community First Responder、以下CFR)、または民間事業者緊急対応チーム(Corporate Emergency Response Team、以下CERT)メンバーは機能的な衛生管理を実施しなければならない。電気・ガス・水道などのインフラが甚大な被害を受けている状況下における活動現場で、衛生管理を適切に実施するのは簡単なことではない。また、その部分について細かく記述するとかなりのボリュームになるので、本連載では簡潔に重要なポイントだけに焦点を絞り記載することにした。特に下記に掲げる8つのポイントは本誌の愛読者の皆様には押さえてもらいたい項目だ。

1. 洗いの徹底:水とせっけんで最低でも15~20秒は手全体をよく洗う(アルコール消毒液可)。

2. ノンラテックス・グローブの着用(ゴム手袋・ビニール手袋):グローブの在庫状態にもよるが、1人の要救助者へ処置をするごとにグローブも消毒洗浄することが望ましい。豊富に在庫がある場合は1回ごとに廃棄すること。

3. N95マスクとゴグルの着用:このシリーズでも何回も触れているが、個人用保護具は常に装備した状態で活動することが重要である。

4.
包帯やガーゼの衛生状態を保つ:包帯やガーゼは一旦封を開けたらすべて使い切ることを推奨する。

5.  血液や体液の洗浄:血液や体液が付着した部分は即座にせっけんと水または消毒液で洗浄する。

6. ごみ処理:使用後のグローブや包帯などの細菌性医療廃棄物は一般ごみとは分別し、ビニール袋などに入れ密封し医療廃棄物と表示した上で処分すること。

7. 汚物の処理:配管などに破損がありトイレが使用できない場合は地面に穴を掘り仮設トイレを作る場合があるが、活動現場から離れた地点に設置し汚物は必ず土で覆い標識を立てて、必ず後で消毒すること。

8. 清潔な水の確保:災害時において水は大変重要な資源であることは明白である。飲料水のみならず、調理用、応急処置用、また上記に掲げたような衛生管理を実践するための生活用水全般の確保も重要なファクターなのである。普段からの水の確保はもちろん、浄水タブレットや家庭用漂白剤などを使用した水の浄化方法についても知っておくべきである。 


これらの衛生管理を実施することに関してもCFR、CERTメンバーは行政からの支援体制が整う前段階から(初動の段階で)自己完結できるように平時から準備・訓練することが重要だということを認識してほしい。逆説的に言うと、普段からの備えがなければ災害現場において理想的な衛生管理を実施すること自体が困難なのである。本連載全シリーズを通して訴えたいことの1つが「ソフトとハードの両面から備えるべし」である。

【災害救護の機能について】 


災害救護活動を円滑に実践する為には下記に掲げる5つの機能が必要となる(図1参照)。

1. トリアージ

2. 処置

3. 搬送

4. 黒タグ傷病者の管理

5. 資機材


図で示すように、災害救護活動もICS(インシデント・コマンド・システム)のルールに従いチームとしてそれぞれの役割を機能させなければならない(本連載第3章“チームの安全を守るICS”参照)。