同時多発テロ発生後の復旧活動における組織のレジリエンス
Factors underlying organizational resilience: The case of electric power restoration in New York City after 11 September 2001
合同会社 Office SRC/
代表
田代 邦幸
田代 邦幸
自動車メーカー、半導体製造装置メーカー勤務を経て、2005年より複数のコンサルティングファームにて、事業継続マネジメント(BCM)や災害対策などに関するコンサルティングに従事した後、独立して2020年に合同会社Office SRCを設立。引き続き同分野のコンサルティングに従事する傍ら、The Business Continuity Institute(BCI)日本支部事務局としての活動などを通して、BCMの普及啓発にも積極的に取り組んでいる。一般社団法人レジリエンス協会 組織レジリエンス研究会座長。BCI Approved Instructor。JQA 認定 ISO/IEC27001 審査員。著書『困難な時代でも企業を存続させる!! 「事業継続マネジメント」実践ガイド』(セルバ出版)
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今回紹介するのは、米国のレンセラー工科大学の David Mendonça 准教授と William A. Wallace 教授による論文「Factors underlying organizational resilience: The case of electric power restoration in New York City after 11 September 2001」(以下「本論文」と略記)である。
これは 2015 年 3 月に、「Reliability Engineering and System Safety」(注 1)に掲載された論文で、2001 年 9 月 11 日に発生したニューヨーク同時多発テロの直後に実施された、電力供給システムの復旧活動に関する個別調査の結果から、組織のレジリエンスに影響を及ぼす要因について考察したものである。
本論文によると、テロの発生によって、マンハッタン島における 8 つの電力供給ネットワークのうち 5 つに対する電力供給が止まり、1万3000 ものビルや設備への電力供給が止まったという。この事態に対応するためにとられた戦略は次の 3 つであった。
(i) 危険なエリアの送電ネットワークをシャットダウンする
(ii) トレーラー型の臨時発電機を設置する
参考例)CAT社(米国)のトレーラー用発電機セット
http://www.cat.com/en_US/products/new/power-systems/electric-power-generation/mobile-generator-sets.html/
(iii) 一時的な電力供給ケーブルを敷設する
調査は 2002 年の春に行われており、復旧活動に携わった企業の経営層や実務を担当したスタッフなどに対するインタビューや、作業記録などのデータの収集などを通して、電力供給作業における活動内容や、活動における問題、成果などを明らかにしている。
本論文ではその調査結果を踏まえて、組織のレジリエンスという観点からの考察を加えている。ここで、考察の拠り所とされているのは、David D. Woods が別の論文(注 2)で次のように示している「組織のレジリエンスに影響をあたえる要因」である。
- 緩衝能力(Buffering capacity)
- 柔軟性/剛性(Flexibility/stiffness)
- マージン(Margin)
(システムがその性能限界にどのくらい近い状態で動いているか)
- 耐性(Tolerance)
(システムが限界の近くでどのように振る舞うか/例えば、外部からの圧力の増加に対して、システムが徐々に悪化するか、それとも崩壊するか)
- 組織の階層を越える相互作用(Cross-scale interactions)
これらの要因と照らし合わせる形で、復旧活動における行動や意思決定 を考察している。例えば「耐性」の観点からは、危険なエリアの送電ネットワークをシャットダウンさせる際、ビルが倒壊しそうな切迫した状況の中で、急に全てをシャットダウンするのではなく、段階的に送電を止める方法が選択された事が指摘されている。
また、「柔軟性/剛性」の観点からは、臨時発電機の調達や設置などのために「発電機グループ」という新しい組織が新設されたことや、既存の組織が本来の役割範囲を超えて即興的に活動したことが、これに該当するとされている。
このように本論文では、同時多発テロ後の復旧活動において、Woods が提示した要因に関連する現象が確認されたことが示されている。さらに、復旧活動の観察結果を踏まえて、新たな要因として「境界を橋渡しする能力(boundary-spanning capability)」を追加することが提案されている。これはつまり、組織が外部の協力者や競争相手とコミュニケーションをとり、意思決定する能力である。
「レジリエンス」という言葉は最近特に多く用いられるようになってきたが、それが具体的に何を意味するのか、どのような要素が含まれるのか、などが曖昧な概念である。本論文はその中でも「組織のレジリエンス」について、概念の具体化を試みた例として非常に興味深いものである。また、同時多発テロの直後に実施された復旧活動に関する詳細な事例分析としても、価値のある論文と言える。
本論文は下記 URL から購入できる(41.95 米ドル)。
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0951832015000836
注 1)https://www.journals.elsevier.com/reliability-engineering-and-system-safety
注 2)この「組織のレジリエンスに影響をあたえる要因」に関する論文は、日本語訳されて次の書籍に収録されている。『レジリエンスエンジニアリング - 概念と指針』(E. Hollnagel 他(編著)、北村正晴(監訳)、日科技連出版社、2012年)
(了)
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