高所から下りられなくなった猫の助け方
なぜ猫は木に登る?
一般社団法人 日本防災教育訓練センター 代表理事/
一般社団法人 日本国際動物救命救急協会 代表理事
サニー カミヤ
サニー カミヤ
元福岡市消防局レスキュー隊小隊長。元国際緊急援助隊。元ニューヨーク州救急隊員。台風下の博多湾で起きた韓国籍貨物船事故で4名を救助し、内閣総理大臣表彰受賞。人命救助者数は1500名を超える。世田谷区防災士会理事。G4S 警備保障会社 セキュリティーコンサルタント、FCR株式会社 鉄道の人的災害対応顧問、株式会社レスキュープラス 上級災害対策指導官。防災コンサルタント、セミナー、講演会など日本全国で活躍中。特定非営利活動法人ジャパンハート国際緊急救援事業顧問、特定非営利活動法人ピースウィンズ合同レスキューチームアドバイザー。
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レスキュー隊現役時代、さまざまなペットレスキューを経験した。そのなかでも難しかったのが、高い木に登って降りられなくなった猫の救出だった。
まず、なぜ猫は木に登るのだろうか?調べてみると下記のビデオにわかりやすい解説があった。
猫が高い木に上る理由:
1、ネズミなど何かの小動物を追いかけて木を上ってしまい、気がついたら高木の上から降りられなくなった。
2、犬や子供などに追いかけられて、木に登って逃げ切ったまではいいが、降りられなくなってしまった。
3、何となく遊びで木に登ったら降りられなくなった。
など
Mochi the Daredevil Gets a Tree-Climbing Lesson/Animal Planet(出典:Youtube)
ではなぜ、猫が木から下りられなくなるのか?
理由は、爪の形状が木に上るためには引っかかりがよく便利がいいが、頭から降りようとすると爪が抜けてしまう。降りるには後ろ向きに降りるか、飛び降りるか、上手く枝から枝に飛び移って下りるかなどが考えられるが、ほとんどの猫は後者3つの選択肢を思いつかないことが多い。
降りられなくなった猫は何日も枝の上で鳴き、もし人間が助けなければ木の上で衰弱し、いずれは転落してしまう。。
ペットレスキューは有料にするべき?
世界的にこのような高所に上った猫のレスキューは消防が行うことが多い。しかし「危険排除」「事態回避」「災害予防」のためのペットレスキューは、料金が請求されることもある。
また有料か無料かの判断は各現場責任者が判断し、有料の場合は1回の出動の基本料金が最低5万円、それに様々な条件によっても追加料金が掛かるようだ。
消防の有料サービスについては下記を参照のこと。
■スコットランド消防局のペットレスキューの基本料金
http://www.dailymail.co.uk/news/article-2642957/Cat-stuck-tree-Thatll-350-Scottish-firefighters-charge-members-public-non-emergency-call-outs.html
2017年3月21日の為替レート1ポンド139円で計算すると、スコットランド消防局のペットレスキューの基本料金メニューは下記の通り。
・はしご車を使ったペットレスキュー:約4万円
・高所作業車:約4万円
・ポンプ車:約4万円
・消防士1人、1時間につき:約3500円
・その他、ペット保険やペットを降ろすための木の伐採理由などに必要な報告書や資機材の数などによって細かく1時間あたりの単価が違う。
ほとんどの場合は救助工作車とポンプ車の2台出動が原則なので、最低5名の消防士が現場活動を行う。実際にはしご車を活用しなくても、また1時間以内で上手く救出できても、約10万円はかかることになる。レスキュー費用がペット保険で下りるかはわからない。
さて、それではどうやって2連ばしごやはしご車が利用できない森や林の中で猫を助けるのか?
調べてみると下記の5つの方法が紹介されている。
高所からの猫の救出方法
最初に猫が高い木に登った要因かもしれない犬などが周りにいれば、一時的に隔離する。
1、呼び寄せによる救出
飼い主や、その猫が慣れている人に木の上にいる猫を呼んでもらい、後ろ向きで降りそうになったときに褒めながら誘導する。
下記のビデオを参照。
Oreo Rescues Himself!(出典:Youtube)
2、木を切り倒して救出する方法
木や土地の所有者や管理者の了解を得た上で、猫が降りられなくなった木を少しずつ切り、ゆっくりと倒しながら猫を地面に近づける。
また、砂袋が先端についたロープを木の上方の太い枝の間に投げて、地面まで届いたら、ロープの両端を持って徐々に木をチェンソーで切りながら、少しずつ倒すこともできる。この時には木を切った部分の跳ね上げと、跳ね上げてからの木の落下に注意すること。また、倒れる方向120度以内には誰もいないように気をつけること。なお、中途半端に倒れた場合は、放置せず、落下危険のないように全て地面に落としてしまうこと。
3、放水による救出
救助者が落下地点を想定して救助幕を張った状態で、猫に向けて緩い圧力で放水し、枝から落とすと共に救助幕や防水シート、ネットで落ちてくる猫を受け取る。ただし、リスクは高い。万が一のことも考えて、飼い主の同意が必要。できれば、同意書を交わしておいた方がいい。
4、ケージを使って捕獲する方法
ケージを猫の目の前まで吊り上げてえさで誘導し捕獲する方法。
how to get a cat out of tree without shotgun.(出典:Youtube)
上のビデオにプラスして下から誘導ロープを付けることや、飼っている猫であれば、いつも猫が食べているえさをケージの一番奥に入れておくことでさらに成功度は増すと思う。
5、木を上っての救助方法
木に登る救助者は、まず、これから登る木の種類と幹の強さを判断すること。次に砂袋が先端についた4ミリほどのロープを、できるだけ高い位置にある直径10cm以上(あくまでも目安)の木の股に投げ、落ちてきた端末に14〜16mmのロープを結んで木の股に通し、降りてきた端末を木の胴に結んでアンカーを取る。
文章での説明ではわかりにくいので下のビデオを参照のこと。レスキュー隊員や山岳でのロープによるクライミング経験者でしたら要領がわかると思います。
ロープの設定方法から救出までの映像(RescueMyCat.org - Kitty Cat Rescue from Black Dragon Videography on Vimeo.)
ロープの緩みを完全に取ったら登攀を開始し、猫の少し上で確保を取り、両手が使える状態にする。怖がらせないように常に声を掛けながらアプローチし、片手で猫の両前足を握った状態で持参した袋に猫を入れる。猫が飛び出ないように、また、落とさないようにしっかりと猫を持つこと。
特に袋に入れようとすると暴れる猫が多い。また、いったん袋に入れてもパニックになり、袋から飛び出すこともあるため落下に注意。
下記のビデオでは、ネットやキャッチポールという捕獲用具を使ったキャットレスキューシーンが紹介されている。
Cats Rescued From Trees Compilation(出典:Youtube)
Kitty the Cat's Tree Top Rescue(出典:Youtube)
下の動画は追いかけっこをしていた猫2匹とも木の上から降りられなくなってしまった場合のレスキュー
Two cats rescued from SAME tree by Canopy Cat Rescue(出典:Yotutube)
すばらしいのは、アメリカの各州にキャットレスキューのスペシャリストが登録されているサイトがあること。そして、最近では木に引っかかったラジコンやドローンのレスキュー等も行い、職業にしている人もいるそうだ。
■キャットレスキューのスペシャリストのリンク
※日本には一人もリンクがない。。
http://www2.catinatreerescue.com/view/directory.cfm
今回、下記のキャットレスキューのスペシャリスト、パトリック・ブラント氏のサイトから、たくさんのキャットレスキューの手法やコツ、注意点などを学んだ。ここまで救助法を詳しく公開しているパトリック ブラント氏に心から感謝したい。
■RescueMyCat.org
http://www.rescuemycat.org/p/rescue-services.html
■彼のキャットレスキューの手法は世界中の消防士が参考にしている。
http://www.rescuemycat.org/p/cat-rescue-stories.html
いかがでしたか?
パトリック・ブラント氏によると、成猫であれば経験を活かしてどうやって降りようかを考えるそうで、降りられなくなってから目安として24時間くらい待ってみると、その間に自分から降りてくることもあるようだ。
消防がどこまでペットレスキューをやるかを考えると現時点では微妙なところもあると思うが、実際に行うとしたら、飼い主や木の所有者などと話し合い、猫が落下したときに事も考えて、保険の確認や同意書を交わす必要もあると思う。
また、これからは消防以外の民間でペットレスキューを職業にする人や組織ができるのかもしれない。
木の上から降りられなくなった猫は体の大きさや気象条件にもよるが、飲まず食わず、高度のストレス状態で子猫であれば24時間、成猫であれば、36時間でかなりの体力を消耗するといわれている。
もし、木の上で猫が降りられなくなった場合にどうやって救助するのか。近くの高木を見上げて、救出方法を考えてみて欲しい。
ほかにも木だけではなく、屋根や電柱など、高いところに登って降りられなくなった猫をどうやって助けるのだろうか。様々なケースを考えてシナリオ訓練してみて欲しい。きっと、そのレスキューコンセプトは何かに役立つと思う。
助かる命が助かりますように!
(了)
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