谷沢製作所代表取締役社長 谷澤和彦氏。後ろは創業80周年時に作成したパネル

谷沢製作所は1932年創業。今年で85周年を迎える老舗の保護帽メーカーだ。長年にわたり工場や建設現場の厳しい環境から作業員を守ってきた同社が2015年に開発した防災備蓄用の回転式ヘルメット「Crubo(クルボ)」は、確かな品質と収納しやすい形状で好評を博している。同社代表取締役社長の谷澤和彦氏に、製品開発にかける想いをインタビューした。

1932(昭和7)年に現社長の谷澤氏の祖父が創立した同社は、もともとは鉱山の掘削機や、それに付随した保安帽子の輸入販売などを手がけていたが、昭和9年に鉱山、炭鉱用のヘルメットの実用新案特許を取得して、販売を開始した。

戦後は原材料不足でヘルメットが作れなくなったが、米軍の進駐軍から払い下げを受けたヘルメットをリユースして販売したところ、大ヒット。同じ形のヘルメットを1950(昭和25)年に自社でも生産を開始し、現在の会社の礎となる。

谷澤氏は「現在でも丸いヘルメットをMP型と呼んでいるが、これは当時の進駐軍のヘルメットの名残り。当社は当時から安全と品質にこだわったモノづくりを展開してきた」と話す。

同社が東日本大震災を経て、防災備蓄用品として開発したのが回転式ヘルメット「Crubo」だ。帽子の上部が回転し、下部にしまうことができるため収納時の高さを通常の約2分の1に抑えた。A4サイズの箱に収納しておくことができため、オフィスの引き出しや棚に置くことができ、備蓄にも最適だ。

回転式ヘルメット「Crubo」(左上)、帽子の上部が回転し、下部にしまうことができる(右上)、A4サイズの箱に収まるため、机の引き出で収納も可能(左下)、同社の礎となったMP型ヘルメット(右下)

谷澤氏は「当社でも東日本大震災で社員1名が亡くなった。それから防災用の保護帽を製作しようと考えたが、実は何度も失敗している。それでも工場や建設現場でも使える最高の品質に妥協をしたくなかった」と開発の過程を振り返る。

谷澤氏が常に保護帽の開発にあたって念頭に置いているのは、バイク用のヘルメットで用いられる「スネル(SNELL)規格」だ。オートバイレーサーだったピート・スネル氏がレース中の事故で死亡した原因は、ヘルメットの性能が十分に機能していなかったことに起因するものとして、スネル氏の親族や友人らは1957年に「スネル財団」を創設。1959年に「スネル規格」を定め、現在でもバイクレースなどで使う最高級ヘルメットの基準となっている。「スネル規格はどの国のヘルメットの基準よりはるかに上回る性能を目指している。当社で作る保護帽は常にそうありたいと思っているし、災害用のヘルメットもそうしたかった」(同氏)

通常の「災害用備蓄商品」としての保護帽は、普段から使用するものではないため、どうしても「災害時の一時期を過ごせればよい」ものとなり、強度的には落ちるものになりがちだ。しかし谷澤氏らは工夫を重ね、「Crubo」は備蓄用品でありながら厚生労働省が定める「保護帽の規格」をクリア。飛来・落下物や墜落時保護に関しては第一線の工事現場で利用できる強度と品質を保っている。

品質を保つことで、備蓄以外の思わぬ活用法も出てきた。大手ハウスメーカーやゼネコンの社員など、一日に何件も工事現場を回らなければいけない従業員がこぞって購入するようになったのだ。同氏は「ヘルメットを携えて電車に乗るのに抵抗があった人も、「Crubo」なら鞄に入れて持ち運ぶことができる。これも作業現場で使える品質に妥協しなかったから」と胸を張る。

谷澤氏は「災害時に大切な命を守る保護帽だからこそ、高品質のものを作りたかった。保護帽の備蓄を考える方々は、ぜひ使いやすさだけでなく保護帽の品質も比較し、検討してほしい」と、災害時における品質の大切さを訴えている。

(了)