【キーウ時事】ロシアの侵攻が長期化する中、ウクライナは人工知能(AI)に活路を見いだそうとしている。火薬、核兵器に続き、戦争における「第3の技術革命」とされるAI兵器。より早く実用化にこぎ着けた側が戦争の主導権を握る可能性が高く、両国の戦いは「テクノロジー戦争」の様相を帯びる。ただ、AI搭載の自律型兵器に関する国際規制は存在せず、歯止めなき開発競争を懸念する声が上がっている。
 ◇貧者の「ジャベリン」
 首都キーウ(キエフ)にあるウクライナ軍のドローン操縦士養成所。男性10人ほどが両手にコントローラーを握りしめ、画面とにらみ合っていた。ここで座学や操縦など1~2週間の訓練を受け、前線に向かう。
 兵力や火力で劣るウクライナ軍は当初、ドローンを駆使して大きな戦果を挙げた。偵察用の機体でロシア軍部隊や戦車の位置を把握し、攻撃用の機体で標的を破壊。航空偵察部隊のロマン・コルジュ司令官は「1機1000ドル(約15万円)以下のドローンで、1両200万ドル(約3億円)以上の戦車を破壊できる」として、「ドローンは貧者の(米国製対戦車ミサイル)『ジャベリン』だ」と語る。
 ◇技術競争でも劣勢
 だが、ウクライナが技術面で優位に立っているとは言えない。高い電子戦能力を有するロシア軍は、飛来するドローンと操縦士間の通信を妨害するなどし、次々と無力化。コルジュ氏によると、ウクライナ軍が戦場で失うドローンは毎月1万機を超える。
 ウクライナは、深刻化する砲弾不足をドローンで補う方針だ。ゼレンスキー大統領は今月、「無人兵器軍」を創設する大統領令に署名。年内に100万機を製造する目標も掲げた。現在200社以上のスタートアップ(新興企業)が、通信を遮断されてもAIが独自に標的を識別・攻撃する自律型ドローンの開発を急いでいる。
 ただ、キーウ在住の技術者アレクサンダー・ソロカ氏は「ロシアはかねて巨大な軍需産業基盤を維持し、技術者を育成してきた」と指摘。AI兵器開発に多額の資金を投じているといい、「技術者が国外に流出し、資金力に乏しいウクライナが技術競争に勝つのは困難だ」と予想する。
 ◇長引く戦争で進化
 意思決定に人が関与しない「自律型致死兵器システム(LAWS)」などのAI兵器を規制する国際ルールは存在しない。「ウクライナは国内外の企業が開発したさまざまなAI技術の実験場になっている」とウクライナ政府AI開発専門委員会のビタリ・ゴンチャルク氏。AIは実戦で得た貴重なデータを学習し、さらに改良が加えられ、「戦争が長引くほど進化していく」と予測する。
 完全な自律型兵器の登場は、もはや時間の問題だ。核兵器やミサイルより安価かつ容易に製造できるため、地域紛争の当事者やテロ組織に拡散する恐れもある。ゴンチャルク氏は「人類にとって非常にまずい事態になりつつある」と懸念を示した。 
〔写真説明〕ウクライナ軍のドローン操縦士養成所=1月25日、キーウ(キエフ)
〔写真説明〕小型ドローンを手に取材に応じるウクライナのドローン技術者アレクサンダー・ソロカ氏=1月30日、キーウ(キエフ)

(ニュース提供元:時事通信社)