-->

協定の訓練も実施 
協定が確実に履行できるようにするために、日頃からの訓練にも力を入れている。 

県では、9月1日の総合防災訓練に加え、緊急輸送、医療などの特化型訓練でも、できるだけ協定締結事業者に加わってもらうようにしているとする。 

例えば物資調達については「机上での訓練ではあるが、事業者から調達できる量を報告してもらい、それを受け、県が必要数を確保する演習を行っている」(櫻井氏)。さらに、年1回は、協定先の自治体職員・民間事業者を対象にした研修会も開催。2009年度から始めた試みで、参加者は年々増え、2012年度には140人程度が参加した。内容は、事業者の防災対策の事例発表や、県の取組説明だが、県職員と協定先の自治体、企業などの担当者が顔を合わせる機会にもなっている。

県における協定の目的 
協定の実効性を確保するためには、協定の締結方法にも注意を払う必要がある。自治体・民間の災害時応援協定の多くは、自治体が事業者から提案を受け、それを担当者間で調整し、事業者と協議した上で締結するのが一般的。静岡県では、その際の留意点として「原則として、協定の効果が県下全域に及ぶこと」を掲げる。理由は、県における協定は、市町村が被災した際に、市町村の機能を補う目的があるためだ。つまり、県内どの基礎自治体が被災しても支援する必要があるため、協定についても全域がカバーできる規模の事業者と締結をすることにしている。 

仮に、特定の市、町にしか協定の効果が及ばない場合は「事業者に対し、その市、町と協定を結んでくださいということにしている」と渡邉氏は説明する。 

もう1つ、県の協定には、事業者の偏在による市や町の物資の取り合いを防ぐ意味もあるとする。比較的大きな市であれば、それなりに事業者が存在しているため、所管内の事業者との協定は締結しやすいが、小さな町や村(静岡県内では村はない)では、そもそも事業者が存在しない可能性もある。それらの町や村に事業者との協定を無理強いすれば、他の市と協定を結んでいるような事業者と重複した協定を結ぶことになり、結果として広域災害時などにおいては物資の取り合いが起きてしまう可能性がある。このような摩擦が生じないために「県として事業者と協定を結んでいるので、市町の壁を考えずに、災害時にはお互いに機能するようお願いしますと言っている」(櫻井氏)とする。

民間事業者の姿勢を問う 
協定の中には、具体的な数量などは明記していない。「状況によって可能な支援の量は異なるだろうし、必ずしも数量化できない協定も数多く存在している」(渡邉氏)ことが理由だ。ただし、その協定を実行するための努力をどこまで考えているかはヒアリングなどにより確認している。特に東日本大震災以降については、電気や燃料が満足に供給されないかもしれないことを前提に、担当者間で協定締結に向けた協議を行っているという。 

「協定を結んだ事実をつくることだけに一生懸命になって、協定の実現可能性、限界などを考えてもらっていないと思われるケースについては再考してもらうこともある」と櫻井氏。例として、以下のようなケースを挙げる。

・CSRを大義名分として“企業広報”だけを動機としている場合
・協定内容や提案の以前に、県知事とのセレモニーを段取りしたがる事業者
・同業者や他県の同業団体が協定を締結したことだけが唯一の動機である事業者
・大規模災害の想像を十分にしていない事業者
・協定内容に比べて事業規模が明らかに過小な業者、など

中には、「社会活動として何かやりたいが、何か協定を結ばせていただけないか」と提案を持ちかけられるケースもあるそうだ。 

渡邉氏は「静岡県の考え方であるが、住民に対しても事業者に対しても、他人を助けてもらう気持ちはありがたいが、他人を助ける前に自らが助かってくださいという考えを持っている。事業者の方も名誉とか企業広報のために協定をする以前に、まずBCPを構築するなり、自分を守り、顧客を守り、その上で手を貸してほしい」と話す。 

この他、緊急物資支援協定などについては、物資の調達先、調達方法にも配慮している。いざ被災時になってから、どちらが、どこへ運ぶか協議したのでは混乱を引き起こしかねないためだ。