「Area-BCM」プロジェクト代表の名古屋工業大学教授/渡辺研司氏

自然災害リスクによる地域産業への影響を可視化し、産学官民の連携により地域のレジリエンスを強化する「Area-BCM(地域型事業継続マネジメント)」プロジェクト(代表:名古屋工業大学教授/渡辺研司氏)が14日発足。同時にArea-BCMのもたらす企業や地域への効果や、新たに期待される技術などを紹介するシンポジウムを開催した。

同プロジェクトは、科学技術振興機構(JST)と国際協力機構(JICA)が共同で運用する地球規模事業課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS(サトレップス):Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development)の本年度の主要採択テーマとして行うもので、最長5年間の活動となる。2011年に発生した水害で大きな被害を受けたタイの工業団地を対象に、災害リスク分析や情報共通のためのツール・キットの開発を通じ、タイの産業・経済における競争優位性を向上させるとともに、現地に進出する日系企業を中心に事業継続を支援することでグローバル・サプライチェーンの安定継続性強化も狙う。

シンポジウムでは、本事業の共同研究機関である防災科学技術研究所の林春男理事長があいさつしたほか、2011年のタイの大洪水で実際に被災した日鉄住金物産監査部参事の野中志郎氏が当時の状況を報告。中部経済産業局地域経済部課長補佐の伊野恵理氏は、現在の中部地域における地域型BCMの取り組みとタイ工業団地への展開を、JICA国際協力専門員の馬場仁志氏はJICAのASEAN諸国でのArea-BCMの取り組みとタイでの実装事例についてそれぞれ解説した。

パネルディスカッションの様子

後半は渡辺氏をモデレーターに「Area-BCMを実現する技術と課題」をテーマにパネルディスカッションを開催。現在タイの洪水予測に取り組む水災害・リスクマネジメント国際センター(ICHARM)研究員の宮本守氏、ミャンマーで災害対応能力強化システムを構築している東京大学准教授の川崎昭如氏、防災科学技術研究所で水防災観測・予測とデータ解析をけん引する水・土砂防災研究部門長の三隅良平氏が、現在の最新動向と今後の課題についてそれぞれプレゼンした。

代表の渡辺氏は「2011年のタイの洪水では、官民の情報共有のあり方や意思決定の仕組みなどの課題が抽出された。その後、タイの水害対策はハードウェア中心に進んできたが、レジリエンス強化という観点からすると今でも心配が残る。このプロジェクトでは、ハードよりもソフトウェアの部分で、地域において自分たちのビジネス・雇用・暮らしを官民が連携して守っていくための仕組みを構築していきたい」と、プロジェクトに対する抱負を語った。

(了)